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日外会誌. 94(1): 78-85, 1993


原著

ヒト膵癌における Ag-NORs 染色からみた腫瘍細胞増殖能の検討

日本医科大学 第1外科
*) 日本医科大学 病理

相本 隆幸 , 恩田 昌彦 , 内田 英二 , 浅野 伍朗*)

(1991年8月13日受付)

I.内容要旨
Nucleolar Organizer Regions (NORs) は, rRNAをコードするDNAloopで細胞の活動性を反映すると考えられている.そこでAg-NORs染色を用い膵癌における腫瘍細胞増殖能をFlowCytometry (FCM)の結果と対比するとともに, 胃癌, 大腸癌の示す増殖能との相違を比較検討した.
対象として膵癌23例, 正常膵組織10例と慢性膵炎10例, そして比較検討する癌組織として胃癌17例, 大腸癌18例を用いた.
悪性病変におけるAg-NORsは, 正常あるいは良性病変に比べ, 大小不同があり不整な形態で不均ーな分布を示した.正常膵組織, 慢性膵炎のAg-NORs指数はそれぞれ1.86±0.38, 2.14±0.53で, 膵癌の4.02±1.19はこれらに比し有意に高い値を示していた(p<0.01).またFCMとの対比では, 一核当たりの平均Ag-NORs数とDNA Indexには特に相関関係はないが, S期細胞分画率を意味する%Sとの間には有意な相関関係を認めた(r=0.59, p<0.01).
比較対象として用いた胃癌, 大腸癌のAg-NORs指数はそれぞれ6.35±1.32, 7.66±1.35で, 膵癌の4.27±1.47はいずれと比べても有意に低い値であったが(p<0.01), 同時に計測された癌部(T)と非癌部(N)の一核当たりの平均Ag-NORs数の比を示すT/N比で比較すると, 膵癌は胃癌, 大腸癌との間に有意差はみられなかった.
以上により, ヒト膵癌においてAg-NORs染色は腫瘍細胞増殖能の解析に有用と考えられた.さらに予後不良とされる膵癌の増殖能は胃癌, 大腸癌に比べ低いと考えられたが, この低い増殖能の一因はT/N比に差がないことから発生母地自体つまり膵管上皮による可能性が示唆された.

キーワード
Argyrophilic Nucleolar Organizer Regions(Ag-NORs), 腫瘍細胞増殖能, 膵癌


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