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日外会誌. 92(10): 1509-1519, 1991


原著

腹部大動脈血行再建手術後の腸管虚血の予防に関する研究
―経肛門的直腸内ドップラー法を用いた再建術式の決定―

東京医科歯科大学 第1外科(指導:遠藤光夫教授)

桜沢 健一

(1990年10月2日受付)

I.内容要旨
腹部大血管手術後の致命的合併症である腸管虚血壊死を予防するため,これまで下腸間膜動脈(IMA)・内腸骨動脈(ⅡA)の血流維持が重要とされてきた.教室では新しい術中モニター手段として経肛門的直腸内ドップラー法を開発し,上直腸動脈血流を指標として骨盤内血行動態の経時的変化を観察して術式を決定してきた.すなわち大動脈遮断前,各分枝の遮断試験により直腸血流の責任動脈を同定し,さらに大動脈遮断後SMAからの側副血行の良否によってSMA優位・非優位を判定することによりIMAやⅡAが安全に結紮しうるかどうかの決定を下した.
腹部大動脈瘤(AAA)49例,大動脈腸骨動脈閉塞性疾患(AIOD)21例の手術に本法を実施した.AAAにおいては43例(88%)がSMA優位と考えられたためIMA・ⅡAは結紮可能と判断できた.いいかえれば,術後の腸管虚血の予防のためIMAまたはⅡAの温存・再建が必要と判断された例は6例(12%)にすぎず,実際にIMA再建を行ったのは2例(4%)のみであった.一方,AIODではSMA優位例は13例(62%)にとどまり,AAAに比しSMAからの側副血行が乏しい例が多く,AAA以上に骨盤内血行に配慮した術式を選ぶことが必要と思われた.
本法によるSMAの優位・非優位の判定はIMA断端圧測定法とは必ずしも相関せず,また術前の画像診断からこれを正しく予測することは困難であった.
本法を実施した70例中,瘤破裂の1例が術中からの虚血が進行してS状結腸壊死に陥った以外,IMA・両側ⅡAの3枝全部を結紮したAAAの14例を含めて重篤な腸管虚血は発症していない.
腸管虚血発生の予防には,術中モニタリングによる責任動脈の同定と側副血行の評価のもとに,各例に応じた術式を選択することが重要と考えられた.

キーワード
腹部大動脈瘤, 大動脈腸骨動脈閉塞性疾患, 虚血性腸炎, 経肛門的直腸内ドップラー法


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