[書誌情報] [全文PDF] (720KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 90(12): 2008-2014, 1989


原著

鈍的腹部外傷に対する Peritoneal tap and lavage 法の有用性と問題点
ー特に腸管損傷の診断に関してー

日本医科大学 救急医学科
救命救急センター(主任:大塚敏文教授) 

大友 康裕 , 益子 邦洋 , 森村 尚登 , 大塚 敏文

(1989年1月28日受付)

I.内容要旨
腸管損傷の診断は,各種画像診断のめざましい発達にもかかわらず,腹部理学所見に頼らざるを得ない.その為,多発外傷の多い腹部鈍的外傷では,1)意識障害を合併する,2)脊髄損傷を合併する,3)骨盤骨折もしくは胸部外傷を合併する,4)暖昧な腹部理学所見を呈する,5)他の外傷で全身麻酔の必要がある等の理由により,腸管損傷の診断が遅延しがちである.こういった症例を対象として,補助診断法としてのPeritoneal tap&lavage法の有用性を検討した.1987年9月より1988年8月までに,上記適応を充たす腹部鈍的外傷36例に対してPeritoneal tap&lavage法を施行し,腹腔内損傷臓器別にその診断率を検討した.“RBC≧10万/mm3,WBC≧500/mm3”という従来の判定基準に加えて,“RBCが陽性の場合WBC≧RBC/150,AMY≧RBC/10,000,GOT or GPT≧RBC/40,000,Alp≧RBC/10,000”という付加条件を設けることにより,1)腸管損傷;WBC一感受性75%,特異性100%(以下同順),2)小腸損傷;AMY-100%,90%,Alp-100%,100%,3)肝損傷;GOT or GPT-100%,91%という結果を得た.この付加条件を用いることにより腹腔洗浄法が,腹腔内出血のみならず,腸管・小腸損傷の診断にも非常に有用なものとなった.特にAlpは小腸損傷に関して,本studyでは,false positive,folse negativeともになしという結果を得ている.肝損傷に関しても中心性破裂を除くと,鋭敏にその存在を診断している.横隔膜損傷に関しては,診断の難しい非ヘルニア合併例で特にその有用性が認められた.Tap&lavage法は,study期間中これといった合併症を認めず,安全で簡便な方法であるが,症例によっては洗浄液の回収が不良で,施行法の改善を検討する必要があると思われた.

キーワード
鈍的腹部外傷, 腸管損傷, 腹腔穿刺洗浄法, アルカリフォスファターゼ


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。