[書誌情報] [全文PDF] (563KB) [会員限定・要二段階認証][検索結果へ戻る]

日外会誌. 90(10): 1685-1691, 1989


原著

腹腔内圧上昇時の循環動態に関する実験的研究:
下大静脈圧モニタリングの有用性について

*) 浜松医科大学 第1外科
**) 東京大学 医学部小児外科

宇野 武治*) , 原田 幸雄*) , 河原崎 秀雄**)

(1988年11月25日受付)

I.内容要旨
腹腔内圧の上昇をきたす外科的浸襲後には生体の呼吸,循環,代謝に種々の影響が加わり,患者の予後に重大な悪影響をきたす.そこで,循環動態の変動をとらえ,安全な腹腔内圧を知ることで治療方針に役立てることを目的に雑種犬を用い,動脈圧測定用マンシェットで定量的に腹壁を加圧して,腹腔内圧上昇に伴う循環動態の変動に関して検討し,以下の結果が得られた.
1)肝下面,臍部,膀胱前面の腹腔内3ヵ所は腹壁加圧と腹腔内圧とに有意な相関が得られ,特に臍部は他の2ヵ所に比して有意な上昇を示した(p<0.05).これは腹腔内圧の上昇が肋骨と骨盤により腹腔内全体に均等に拡がらないためである. 
2)腹壁加圧による左右総腸骨静脈合流部での下大静脈圧は,横隔膜直上から左右総腸骨静脈合流部までの他の4ヵ所に比して有意な高値を認めた(p<0.05).
3)腹壁加圧20mmHgの群は全例24時間生存したのに対し,腹壁加圧40mmHgの群は生存時間が13.8±2.05時間で全例死亡した.その間,両群間の心拍数,平均血圧,体重あたりの心拍出量に有意差を認めなかった.
4)腹壁加圧20mmHgと40mmHgによる左右総腸骨静脈合流部での下大静脈圧の変化は,加圧直後の有意差はみられないものの,その後,前者は減少傾向を示し,後者は逆に増加傾向をきたした(p<0.05).この下大静脈圧の継続的上昇は,末梢循環不全をきたし,代謝性アシドーシス,高カリウム血症をもたらす.
5)腹腔内圧上昇時,左右総腸骨静脈合流部での下大静脈圧の測定は,安全な腹腔内圧を知る上で有効な指標である.

キーワード
腹腔内圧上昇, 下大静脈圧, 腹壁加圧

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。