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日外会誌. 90(6): 863-873, 1989


原著

片葉肝阻血時の肝障害についての実験的検討
ー特に反復阻血の肝におよぼす影響についてー

山形大学 医学部第1外科(主任:塚本長教授)

布施 明

(1988年6月27日受付)

I.内容要旨
片葉肝阻血時における反復阻血の肝に与える障害について,ラットを用いて実験的に検討した.阻血解除後10分間の肝組織エネルギーレベルの変化をみると,30分阻血までは良好な回復を示したのに対し,40分以上の阻血では肝組織中ATP量の回復が著しく不良であり,総アデニンヌクレオチド量は回復せず逆に著しく減少した.これは,肝組織中遊離脂肪酸量,阻血解除直後の肝静脈血血清中アデニンヌクレオチド(AdN)量が阻血30~40分の間で著しく増加することより,40分以上の阻血では肝細胞膜の障害が著しく,阻血解除後に肝細胞よりAdNが流出したためであると考えられた.そこで,阻血時間を30分間とし反復阻血すると,3回反復しても,肝組織エネルギーレベル,肝細胞膜の障害の面で40分阻血1回による障害と同程度でしかなかった.阻血終了後長時間を経た後の障害では,40分阻血,3回反復阻血とも血清中のornithine carbamyltransferaseが上昇していたが,両群に有意差はなく,最高値でも全肝の総活性の1%以下とわずかであった.したがって,3回反復阻血してもミトコンドリアの障害は軽微であると考えられた.これは,阻血終了16時間後の肝組織酸素消費量で,40分阻血群,反復阻血群とも阻血前と有意差がないことでも裏ずけられた.阻血終了後のICG試験の推移でみると,40分阻血群,反復阻血群とも16時間後に軽度の障害を示したが両者に有意差はなく,48時間後には阻血前まで回復した.以上より,30分阻血で反復阻血すると,計90分の阻血が40分阻血1回程度の障害で行え,しかもその障害の程度も軽度であることが示された.したがって,肝細胞膜の障害が急激に進行する以前の短時間の阻血時間を反復することにより,長時間の阻血が安全に行われることが示された.

キーワード
肝阻血, 肝門部片葉阻血法, 肝組織内エネルギー代謝, 肝切除術

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