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日外会誌. 90(6): 837-846, 1989


原著

肝流入血行遮断時における門脈・肝内門脈バイパスの実験的研究
ーバイパス流量の肝に及ぼす影響について

自治医科大学 消化器・一般外科(主任:金澤暁太郎教授)

福本 孝

(1988年3月30日受付)

I.内容要旨
肝流入血行遮断(肝動脈・門脈遮断)時における肝内門脈への門脈血バイパスが肝阻血による障害の防止に有効であるかを,雑種成犬を用い実験研究した.
肝動脈・門脈を同時に1時間遮断し,脾静脈から肝左外側葉門脈枝へ門脈血をバイパスした.バイパス流量を遮断前門脈流量の60%(I群),30%(II群),10%(III群)に設定した群を作製し,安全性とバイパス流量の関連について検討した.また,門脈血バイパスと動脈血バイパスの肝に対する効果の比較の為,門脈・体循環,動脈・肝内門脈ダブルバイパス群(IV群),門脈血バイパスのバイパス流量低下に伴う門脈領域のうっ血の影響をみる為,その対象としてバイパス流量の十分な門脈・体循環バイパス群(V群)を作製し,各群について肝アデニンヌクレオチド量,血液ガス分析,生化学検査等を行い,比較検討し,以下の結果を得た.
1)各群の48時間後の生存率はI群6/6,II群2/5,III群0/5,IV群6/6,V群1/3であった.2)III群の肝アデニンヌクレオチド量,Energy Charge ratio(EC)は,遮断1時間後で各々 50%,53%にまで低下し,またII群も同様に低下し,両群ともに血流再開後も回復せず,V群と比較しても低値を示した.一方,I群とIV群にはこれらの変化は認められなかった.3)バイパス血である門脈血のPO2はバイパス量が小さいほど低下し,II群,III群の遮断30分後は36.9±6.2,31.2±4.7mmHgと著しく低下した.4)ICG血漿消失率は,II群とIII群のECの著しい低下を示したもので解除後1時間において遮断前値の60%に低下し,12時間後にはさらに低下した.以上により,門脈流量の60%を肝内門脈にバイパスすることにより,肝流入血行遮断を安全に行いうる可能性が示唆された.しかし,バイパス量がその病態に与える影響は大きく,バイパス量が門脈流量の30%以下である場合には,肝阻血に加え門脈うっ血も生じ,むしろ60%バイパス流量の門脈・体循環バイパスに比べ危険であることが推察された.

キーワード
肝阻血, 肝組織アデニンヌクレオチド, 門脈・肝内門脈枝バイパス, 急性門脈遮断, バイパス流量

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