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日外会誌. 90(2): 210-221, 1989
原著
甲状腺腫瘍における超音波 B-モードヒストグラムの解析
I.内容要旨手術により病理学的最終診断の得られた甲状腺腫瘍48例50病変(乳頭癌26,濾胞癌6,濾胞腺腫18),および正常と考えられる10例の甲状腺について,術前の超音波Bモードヒストグラムと病理学的診断およびその組織学的特徴所見との相関を検討した.関心領域および対側甲状腺内の対照領域について,輝度の平均値,標準偏差,ひずみ,とがりの4つの統計値を求め,関心領域の統計値より対照領域の統計値を差し引いた4変数,およびヒストグラム間の相似性を示すマハラノビス距離の5変数をパラメーターとして用いた.平均値の差は乳頭癌(-4.6±4.0)(M±SD)で最も低く,ついで濾胞癌(-2.5±4.4),濾胞腺腫(0.2±2.2)の順であり,標準偏差の差は逆に乳頭癌(1.1±1.1)で最も高く,ついで濾胞癌(0.6±0.8),濾胞腺腫(0.1±0.5)の順であった.これらの数値は,腫瘍内線維,スリガラス核,砂粒小体,乳頭構造,濾胞構造などの組織学的所見の占める割合にも相関を示した.ひずみの差は乳頭癌(0.10±0.13)が最も高値で,濾胞癌(0.07±0.08),濾胞腺腫(-0.01±0.08)の順に低値をとり,スリガラス核,砂粒小体と相関がみられた.マハラノビス距離は平均値との相関(r=-0.8)がつよく,組織学的所見との相関も平均値の差と同様であった.いずれのパラメーターにおいても正常組織と濾胞腺腫および濾胞腺腫と濾胞癌の間に有意差はみられなかった.良悪性の鑑別に関してはマハラノビス距離が最も相関が深かった.
簡便な判定法としては,「平均値の差が-2.5以下」,「標準偏差の差が+1以上」の少なくとも一方を満たすものを悪性とした場合,83%のsensitivityと88%のspecificityが期待できる.しかし,濾胞癌と濾胞腺腫の鑑別や予後不良群の識別は困難であった.これらの特性を踏まえて診断に臨めば,Bモードヒストグラムは内部エコーに関する客観的診断根拠を与えうると考えられる.
キーワード
甲状腺腫瘍, 超音波診断, ヒストグラム, 組織特性
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