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日外会誌. 90(1): 108-113, 1989


原著

胸腔内への脱出臓器の有無による外傷性横隔膜損傷の臨床像について

帝京大学 救命救急センター

葛西 猛 , 遠藤 幸男 , 小林 国男

(1988年1月26日受付)

I.内容要旨
従来より,急性期における外傷性横隔膜破裂と外傷性横隔膜ヘルニアは外傷性横隔膜損傷として一括して論じられてきたが,このことが本症の問題点である診断の困難性と手術時のアプローチの選択を未解決に留めている原因の一つと考えた.したがって,過去6年間に経験した外傷性横隔膜損傷20症例を横隔膜破裂(単純破裂群)9例と横隔膜ヘルニア(ヘルニア群)11例に大別し,それぞれの臨床像を比較検討した.
1)合併臓器損傷:胸部臓器損傷は両群とも全例に合併していたが,腹部臓器損傷は単純破裂群33.3%に対しヘルニア群では90.9%と高率に合併していた.
2)胸部X線所見:診断上の特徴的所見は単純破裂群では1例もみられなかったが,ヘルニア群では66.7%にみられた.
3)術前診断:単純破裂群のすべては術中所見により診断がなされたが,ヘルニア群では胸部X線や他の画像診断法などにより全例術前診断が可能であった.
4)手術前のアプローチ法:単純破裂群では開胸,開腹のいずれか単独のアプローチにより手術が可能であったが,横隔膜ヘルニア群では多くの例が追加のアプローチを必要とした.
以上の結果から,胸腔内への臓器の脱出の有無により明らかに異なる臨床像を呈する外傷性横隔膜損傷は横隔膜破裂と横隔膜ヘルニアに分類し,両者を独立した損傷として議論すべきと考える.

キーワード
外傷性横隔膜損傷, 外傷性横隔膜破裂, 外傷性横隔膜ヘルニア, 術前診断, 手術のアプローチ法

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