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日外会誌. 89(10): 1672-1685, 1988
原著
門脈圧亢進症における全身循環動態についての研究
ー交感神経刺激に対する心血管反応を中心にー
I.内容要旨肝硬変症を伴う門亢症53例の全身循環動態の特徴と予後との関係を検討した.さらに循環調節因子の1つとして交感神経機能に着目し,このうちの16例に寒冷刺激と上半身挙上傾斜(tilting)を行つて自律神経刺激に対する心血管反応について検討した.
① 門亢症では,対照に比べ有意に全身循環亢進状態にあつた.
② 全身循環を表わす指標と,肝機能を表わす指標及び酸素需給を表わす指標の間に相関は認められず,全身循環亢進の原因を単に肝機能の低下や酸素需給の面から説明することはできなかつた.
③ ICG消失率が0.08/min以下,あるいはICG肝除去率(ER)が50%以下でかつ心係数(CI)が4.01/min/m
2以上の群では,それ以外の群に比べ術後早期に肝不全で死亡するものが有意に多くみられた.しかしCIや全身末梢血管抵抗指数(TPRI)等循環動態を表わす指標だけでは,予後不良例を区別することはできなかつた.
④ 門亢症患者では,対照に比べ寒冷刺激に対する前腕の末梢血管の反応性が有意に低下していた.tiltingに対する心血管反応も有意に低下していた.
⑤ 寒冷刺激に対する反応係数は,ノルアドレナリン濃度(Nor)と負の相関を示した.
⑥ 補正閉塞肝静脈圧(WHVP)がより高く食道静脈瘤がより高度の症例ほど反応係数が低値であるという傾向がみられた.
⑦ Norは,補正WHVPと正の相関,ERと負の相関,血漿チロジン濃度と正の相関を示した.しかし,CIやTPRI等の全身循環動態を表わす指標との間には相関はみられなかつた.
⑧ 以上の検討成績から寒冷刺激やtiltingに対する心血管反応の低下の原因として,肝機能の低下という代謝的異常の他に,門脈圧の上昇そのものが,全身循環における交感神経の反射調節に関わる1つの重要な因子であることが示唆された.
キーワード
門脈圧亢進症, 全身血行動態, 容積脈波計, 末梢交感神経機能, 血漿カテコラミン
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