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日外会誌. 89(7): 1105-1113, 1988


原著

保存心の生存能の評価に関する研究
一偏光顕微鏡による複屈折試験 (birefringence test) の有用性について―

神戸大学 医学部外科学第2講座(主任:中村和夫教授)
神戸大学 医学部病理学第2講座(指導:杉山武敏教授)

山中 定二

(昭和62年8月4日受付)

I.内容要旨
心臓移植を考える上で,移植前の限られた時間内に保存心の生存能(viability)を正確に評価,予知する方法を開発する事は極めて重要であるが,実用的な評価法はまだ確立されていない.著者は術中に迅速且つ正確に保存心の生存能を評価する方法の確立を目的とし,Braimbridgeらが開発した偏光顕微鏡を用いたbirefringence test(以下複屈折試験)に着目し,本法を用いた保存心の生存能の評価を試みた.さらに,この結果(複屈折性の変化量で示す)を電子顕微鏡所見と対比検討し,以下の結果を得た.
(1)ラット摘出心の単純浸漬保存実験において,各種保存条件と複屈折の関係を調べたところ,4℃のCollins-M液,4℃生理食塩水に浸漬保存した群の複屈折性変化量は,6時間保存後でも前値に比べて10~15%の低下に留まったが,20℃および37℃の生理食塩水に浸漬保存した群では,保存後1時間から6時間にかけて経時的に約20~50%の著明な低下を示した.
(2)イヌの摘出心を直ちに移植した非保存群と4℃のCollins-M液内に12時間浸漬保存した後に移植した群について,ドナー心の保存状態,移植後の回復過程と複屈折性変化量の関係を調べたところ,心摘出後の複屈折性変化量は,一時的に低下し,次いで移植後徐々に回復する傾向を示した.また保存後の複屈折性変化量が前値の70%以下に低下したドナー心は,移植後レシピエントの循環を維持できず,複屈折試験によるドナー心の良否判定が可能であると考えられた.また同一標本における検討で,複屈折性変化量と電顕によるミトコンドリアスコアとは正の相関を認めた.
以上より,心筋の複屈折性(birefringence)の変化は心筋の変性過程を反映しており,複屈折試験は保存心の生存能評価法として有用であると考えられた.また,この測定法は,従来の評価法と比べて,短時間に定量的な結果を得られる為,優れた評価法であると考えられた.

キーワード
心臓保存, 心臓移植, 複屈折試験, 心筋 viability, 偏光顕微鏡

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