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日外会誌. 89(7): 1066-1074, 1988


原著

フローサイトメトリーによる甲状腺腫瘍内DNA含量の測定
一腫瘍の生物学的悪性度判定の試み一

慶応義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

元村 祐三

(昭和62年3月16日受付)

I.内容要旨
腫瘍の生物学的悪性度の追究には形態学的検索のみならず,機能的指標による検索も必要と考えられる.著者は各種甲状腺腫瘍を用いて,flow cytometerにより細胞中の核DNA量を測定し,病理組織診断および臨床的・病理学的所見と比較検討した.
方法はBarlogieらの方法に準じて細胞を処理し,flow cytometerによりDNAヒストグラムを作製した.細胞増殖の指標として,proliferative index(PI)と,DNA indexを用い,以下の結論を得た.
PI値は髄様癌(2例)32.5が最も高く,ついで濾胞癌(12例)31.3±10.2(M±SD),乳頭癌(28例)28.2±6.2,濾胞腺腫(32例)21.6±4.4,腺腫様甲状腺腫(20例)20.6±4.4の順に高値を示した.癌腫のPI値は濾胞腺腫,腺腫様甲状腺腫よりも有意(p<0.01)に高く,かつこれら3者はいずれも正常甲状腺組織(6例)のM+2SDである8.6をこえていた.
一方,DNA indexと異数倍体の頻度は髄様癌で1.15,50.0%,濾胞癌1.25±0.27(M±SD),66.7%,乳頭癌1.19±0.25,64.2%,濾胞腺腫1.01±0.0,9.3%,腺腫様甲状腺腫1.00±0.0,0%となり,癌腫全体では1.21±0.25,64.3%,良性病変で1.00±0.03,1.9%であつた.腫瘍の周囲組織の検索では,癌腫と濾胞腺腫では,腫瘍組織に比べて周囲組織のPI値は有意(p<0.05)に低値を示したが,正常甲状腺組織よりは高かった.DNA indexは1例を除きいづれの周囲組織も正常甲状腺組織と同様に正2倍体を示した.甲状腺癌において,年齢,性別および病理学的進行度(腫瘍体積,リンパ節転移率)とPI値,DNA indexの間には関連は認められなかったが,分化度との間では,低分化癌が高分化癌より高値を示した.
以上の結果より,PI値とDNA indexは甲状腺腫瘍の臨床病理学的悪性度と関連し,生物学的悪性度の指標の1つとなりうる可能性が示唆された.

キーワード
甲状腺腫瘍, フローサイトメトリー, proliferative index, DNA index, 異数倍体


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