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日外会誌. 89(6): 898-905, 1988


原著

PGE1 の肝循環に及ぼす影響について

東京医科歯科大学 医学部第2外科学教室 (主任:三島好雄教授)

石田 孝雄

(昭和62年7月15日受付)

I.内容要旨
肝硬変や慢性肝炎を合併する症例では,術中・術後の肝血流量の維持は術後の肝不全発生予防につながる.全身血行に影響を与えることなく肝血流量を増加させる薬剤としてprostaglandin E1 (PGE1)を選択し,肝庇護剤として臨床応用可能か否かを実験的に検討した.
雑種成犬を用いて,肝動脈,門脈内にPGE1を直接持続注入させた際の肝動脈血流量(HAF),門脈血流量(PVF),肝組織血流量(HTF)の変化を経時的にしらべ,同時に肝静脈より採血して肝酵素 (GOT, GPT, 乳酸,ピルビン酸)を測定した. PGE1投与前と投与後について比較し,また, PGE1投与群と非投与群とを比較検討した.肝循環における肝動脈と門脈の相互作用を除くため,門脈遮断,肝動脈遮断下の投与についても検討した.
PGE1肝動脈内持続投与180分間の観察では, 1) PGE1動注濃度0.5ng/kg/min以上では投与直後よりHAF, HTFが上昇し,投与中止後20分でもとの値に戻った. 2) PGE1動注の最適濃度は1.0~2.0ng/kg/minとなり,HAFは160%, HTFは122%まで上昇した.3) PGE1 100ng/kg/minを門脈内に持続投与すると,PVF, HTFが上昇したが,10~50ng/kg/minの投与では上昇をみとめなかった.4) 門脈遮断下,肝動脈遮断下でそれぞれPGE1を投与すると,非投与群に比し乳酸,ピルビン酸の上昇が有意(p<0.05) に抑制された.
以上の成績より,PGE1は肝血流を増加させ,術後肝不全発生を予防する目的で臨床応用が可能と考えられた.

キーワード
肝循環, プロスタグランディンE1, 水素ガスクリアランス法, 門脈バイパス

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