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日外会誌. 89(6): 805-814, 1988


原著

食道癌の予後因子に関する臨床病理学的研究

神戸大学 医学部第1外科 (主任:斉藤洋一教授)

浜辺 豊 , 佐藤 美晴 , 斉藤 洋一

(昭和62年1月19日受付)

I.内容要旨
食道癌の悪性度について“食道癌取扱い規約”の病理項目が術後生存期間へ及ぼす影響の大きさをCoxの比例ハザード法により解析した.さらに,局所および転移所見について“規約”上の問題点や量的な概念を考慮し,癌腫の持つ悪性度を臨床病理学的に検討した.1984年までに神戸大学第1外科で取扱つた原発性胸部食道癌切除症例のうち詳細に検索可能な66例を対象とした.その5年生存率は26.1%であり,“規約”の病理8項目のうち深達度,リンパ節転移程度が重要な予後規定因子であつた.
新しい病理項目として次の5項目を設定した.①瘢痕の層における深達度:変性および瘢痕の状態により照射前に癌細胞が存在したと推定される層;②発育形式:食道壁内を浸潤発育する形式;③癌腫の量:粘膜下層,筋層,外膜の各層における浸潤面積を計測し求めた癌腫の量的な把握;④リンパ節転移分布:癌腫占拠部位に関係なく郭清手技の制約を考慮に入れた転移分布;⑤リンパ節転移個数:転移個数を区分した量的な把握.
5項目間の関係をSpearmanの連関係数にて求めたところ,瘢痕の層における深達度は癌腫の量,発育形式とリンパ節転移は癌腫の量と相関した.リンパ節転移と各層の浸潤範囲との相関は粘膜下層が大きく,次いで外膜,筋層の順であつた.
比例ハザード法で分析したところ,5項目のうちリンパ節転移分布と癌腫の量は予後に大きく影響しており,この2項目より求めた推定生存率は実測生存率と良く適合し術後の生存期間を予測することができた.
腫瘍因子として“規約”の項目だけでなく,量的な概念を考慮した新しい観点から食道癌の悪性度を評価でき,生物学的特性を考える上で有用であつた.この様な取扱いをすることにより術後の予後推測が可能であり,適切な治療方針を立てることができ臨床上有意義であると思われる.

キーワード
食道癌, 食道癌の予後規定因子, 食道癌悪性度, 食道癌の新しい病理項目, Cox の比例ハザード法

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