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日外会誌. 89(2): 162-172, 1988


原著

食道癌における腺性成分に関する組織化学的研究

東京大学 医学部第2外科学教室(指尊教官:出月康夫教授)

真船 健一

(昭和62年3月18日受付)

I.内容要旨
腺性成分を含む食道癌の頻度,臨床的特徴などを把握するために,食道癌切除標本を粘液組織化学的および免疫組織化学的に検討し,さらに臨床病理学的検討を加えた.
食道癌切除128症例135病変の固定標本から全割連続切片を作成し,粘液染色として, PAS, アルシアン青,ムチカルミン, HID-ABの各染色を,さらに酵素抗体PAP法によるCEA染色を行った.また106例については,術前血清CEA値と染色結果とを比較検討した.
食道癌135病変中粘液染色は48病変 (35.6%) に腸性であり,組織型を扁平上皮癌に限つても, 127病変中41病変 (32.2%) に粘液染色腸性細胞が含まれていることが判明した.また粘液染色腸性48病変中HID-AB染色におけるHID陽性は26病変(54.2%)を占めていた. CEA染色は49病変 (36.3%)に腸性であり,また粘液染色陽性48病変のうち38病変 (79.2%) がCEA染色陽性で,有意の差をもってCEA染色陽性病変は粘液染色陽性病変に多かった.
粘液染色陽性群48症例48病変と粘液染色陰性群80症例87病変を臨床病理学的に比較すると,静脈侵襲が粘液染色陽性群に多い以外は,有意の差は認められなかった.血清CEA値は,粘液染色陽性群39例中17例(43.6%) に陽性であり,粘液染色陰性群67例中の陽性12例 (17.9%) と比較すると,血清CEA陽性例は粘液染色陽性群に有意に多かった.
以上のように,食道癌における腺性成分は従来の報告より極めて高頻度に認められた.これらの腺性成分を有する食道癌は,従来固有食道腺もしくはその導管由来のものが多いとされていたが,本研究によつて重層扁平上皮由来の可能性も示唆された.また食道癌におけるCEAはこの腺性成分に多く由来すると考えられ,腺性成分を有する食道癌では血清CEAによる経過観察も有用と考えられた.

キーワード
食道癌, 腺癌, 粘液組織化学, 免疫組織化学, 癌胎児性抗原 (CEA)


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