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日外会誌. 88(4): 413-421, 1987


原著

胸部食道癌のリンパ節転移と予後
―特に転移リンパ節数及び胸腔内転移,腹腔内転移について

東北大学 医学部第2外科(主任:葛西森夫)

大森 典夫

(昭和60年8月16日受付)

I.内容要旨
胸部食道癌のリンパ節転移と予後との関係は現在の食道癌取り扱い規約による転移リンパ節群分類では十分説明できない症例も少なくなく,食道癌取り扱い規約での各郭清用リンパ節番号の分類も必ずしも明快に区分されているとはいい難い.本研究は以上のことに鑑がみ,予後と転移形式を詳細に分析する事により,更に不偏的で明快なリンパ節転移の群分類の一助とすべく検討した.
対象は教室で切除された原発性胸部食道癌257例のうち,姑息切除例,直死例などを除いた162例である.これらの症例はいずれも術前合併療法が行なわれていない.リンパ節転移を,(A)転移リンパ節個数が,0個,1~2個,3個以上の症例群に分け,(B)転移部位により主に(a)胸腔内にのみ転移,(b)腹腔内にのみ転移,(c)胸腹腔にわたる転移,のそれぞれ3群に分類し,予後及び他の臨床的諸因子との関係,術後合併療法別予後との関係について検討し,以下の結果を得た.(1)リンパ節転移陰性例の予後は5生率が65.1%と良好だが,転移陽性例の予後は5生率:11.8%と不良であつた.(2)リンパ節転移陽性例においては,転移リンパ節数1~2個の5生率は14.5%,腹腔内のみ転移例の5生率は16.3%,胸腔内のみ転移例の5生率は14.3%,近位リンパ節転移例(n1(+),n2(+))の5生率は17.8%であった.一方,転移リンパ節数3個以上,胸腹腔にわたる転移例,遠位リンパ節転移例(n3(+),n4(+))は予後不良で,3年以上の生存者はいなかつた.(3)術後照射・化学療法併用例の生存率は術後照射単独または合併療法非施行例に比べて,腹腔内のみ転移例が転移リンパ節数1~2個の症例では有意差を認めたが,他方,胸腹腔に広範囲にわたる転移例や転移リンパ節数3個以上の症例では生存率の差はなかつた.

キーワード
胸部食道癌, リンパ節転移


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