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日外会誌. 88(4): 401-412, 1987


原著

ポリL-乳酸を素材とする制癌剤徐放システムについての実験的研究

金沢大学 医学部第1外科学教室(主任:岩  喬教授)

山下 良平

(昭和61年6月3日受付)

I.内容要旨
制癌剤の効果増強と副作用軽減を目的として,生体内分解性高分子ポリL-乳酸を素材とした制癌剤徐放システム,5-Fluorouracil・ポリL-乳酸複合体針(F-PLA針)を調製し,その薬剤徐放性と抗腫瘍性について実験的検討を行なつた.F-PLA針は,ポリL-乳酸と5-Fluorouracil(5-FU)を溶媒法によつて混合したのち,この混合物を針状に熱プレスすることにより調製した.本研究では径1.5mm,長さ10mm,重量20mgの製剤を使用した.
in vitroにおけるF-PLA針からの5-FU放出速度は,5-FU含有率に相関した.また,in vivoにおける50%F-PLA針(5-FUを50%,10mg含有)からの5-FU徐放期間は,その投与部位によつて異なり,ラット皮下で1ヵ月以上,ラット肝内およびAH 109A皮下腫瘍内では約2週間であつた.ラット皮下に埋め込み後の50%F-PLA針の重量は,投与後早期に5-FUの放出に伴い急速に減少したが,5-FU放出後の変化はきわめて緩徐であつた.
F-PLA針をラット肝内およびAH 109A腫瘍内に投与した場合,局所組織内5-FU濃度は長時間高値を持続したのに対し,血中5-FU濃度は低値にとどまつた.病理組織学的検索では,F-PLA針をラット肝内に埋め込んだ時の異物反応はきわめて軽微であり,またAH 130腫瘍内に投与した場合には,1週間後に複合体針周辺約3mmの範囲に腫瘍の壊死像が認められた.F-PLA針をラット皮下に投与した場合の全身的副作用は,該当量の5-FUを皮下注射した場合に比較してきわめて軽度であつた.AH 130およびAH 109A担癌ラットに対する抗腫瘍実験では,F-PLA針投与群で有意に腫瘍の増殖抑制と生命延長が認められた.
以上のことから,5-FU・ポリL-乳酸複合体針は,癌化学療法における局所的制癌剤投与の一手段として,十分にその有用性を期待しうるものと考えられた.

キーワード
drug delivery system, poly L-lactic acid, biodegradable polymer, 5-fluorouracil, cancer chemotherapy


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