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日外会誌. 88(2): 176-185, 1987


原著

ヒト胃癌の予後因子の検討
-特に癌細胞の増殖と CEA 産生との関連性について-

日本医科大学 第2外科学教室(主任:庄司 佑教授)
日本医科大学 第2病理学教室(指導:浅野伍朗教授)

久喜 邦康

(昭和61年5月2日受付)

I.内容要旨
癌細胞の分化と増殖能との関連性から予後因子を検討する目的で,切除胃における印環細胞癌の形態学的変化とCEAの局在様式を観察するとともに,in vitroにおいて印環細胞株を樹立して細胞増殖動態とCEA産生との関連などその生物学的特性を観察し以下の結果を得た.
粘膜内において印環細胞の粘液は中性ムチンが主体であるが,増殖にともなつて細胞形態のみならず性状も多彩となり酸性ムチンなど腸型粘液の産生が増加し,癌細胞は胃粘膜ならびに腸粘膜上皮の性状を示していた.これらの細胞のCEA局在様式は胞体型と膜型に分類され,粘膜内では膜型が優勢であるが,進行癌の粘膜下組織では胞体型が優位であつた.一方,術前血清CEA値は肝硬変症例を除きほとんど正常範囲であつた.
In vitroでヒト胃印環細胞癌由来培養細胞株を樹立し,その細胞の倍加時間は33.6時間であり,染色体は74%に48,XY,+8,+marであつた.これらの細胞は未熟型と印環型細胞に分類され,微細構造的に前者は細胞内小器官の発達した細胞で,後者は胞体内に粘液の貯留した細胞内小器官に乏しい細胞であつた.また,3H-TdRとBrdU uptakeより細胞の増殖能の増加が観察され,それに伴ないCEAの胞体内産生の亢進がみられた.このことより分裂能を有する未熟な細胞と,分裂能を失つた成熟印環細胞への分化が示唆され不等分裂が推定された.
以上,印環細胞癌でCEA産生動態が増殖能を反映していることが明らかとされた.

キーワード
印環細胞株, carcinoembryonic antigen(CEA), 胃癌, 細胞増殖, 細胞分化

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