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日外会誌. 87(11): 1491-1497, 1986


症例報告

僧帽弁狭窄症に合併した心房細動に関する検討
-特に僧帽弁交連切開術後の電気的直流除細動-

大阪大学 医学部第1外科

佐藤 重夫 , 広瀬 一 , 中埜 粛 , 松田 暉 , 白倉 良太 , 島崎 靖久 , 川島 康生

(昭和61年1月28日受付)

I.内容要旨
1)僧帽弁狭窄症に合併した心房細動に対する直流除細動の有効性と遠隔期の洞調律維持率を明らかにするために,最近7年間の直視下僧帽弁交連切開術症例167例の術前術後の心調律の変化を検討した.2)術前洞調律を61例(37%),心房細動を106例(63%)に認めた.3)術中或いは術後の直流除細動により,術前心房細動を示した106例中76例(72%)を洞調律に戻し,43例(41%)を退院時まで,30例(28%)を術後平均2.5年の遠隔期まで維持し得た.4)術前心房細動から術後退院時洞調律に復帰した43例の,術後7年の累積洞調律維持率は50±11%であつた.5)術後退院時洞調律に復帰した43例について,硫酸キニジン投与群の術後7年の累積洞調律維持率は85±8%,非投与群のそれは11±10%で,前者は後者に比し有意(p<0.001)に高値であつた.6)術前心房細動から術後遠隔期洞調律への復帰に影響する因子としては,術前心房細動罹病期間,心臓超音波検査法による左房径,僧帽弁の弁性状,術直後の左房平均圧が考えられた.6)術後遠隔期洞調律へ復帰した30例(B群)では,術後遠隔期93%の症例がNYHA I度の臨床症状に改善したのに反し,術後遠隔期心房細動にとどまつた78例(C群)では,47%の症例がなおNYHA II・III度を示した.7)術前の心胸郭比は,B群C群間に差が見られなかつたが,術後遠隔期ではB群はC群に比し有意(p<0.001)に低値を示した.8)術後遠隔期洞調律に復帰した30例のうち,術前心房細動罹病期間は最大5年,1年以上の症例が35%存在した.また術前心胸郭比60%以上の症例が40%存在した.9)従つて,術後急性期に再び心房細動に移行した症例に対しては,たとえ心房細動罹病期間が1年以上,或いは術前心胸郭比が60%以上であつても,血行動態が安定した術後10~14日頃に,積極的に再度除細動を試みるべきと考えられた.

キーワード
僧帽弁狭窄症, 心房細動, 直視下僧帽弁交連切開術, 直流除細動, 累積洞調律維持率

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