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日外会誌. 87(10): 1335-1343, 1986


原著

放射線局所照射の肺転移に及ぼす影響に関する実験的研究

広島大学原爆放射能医学研究所 臨床第2(外科)部門(指導:服部孝雄教授)

三好 雪久

(昭和61年1月8日受付)

I.内容要旨
食道がんに対する術前照射の影響について検討する目的で,マウスを用いたモデル実験を行つた.
まず,C57BLマウスとLewis lung cancer(3LL)の系を用いて原発巣局所照射による肺転移促進現象について検討した.1×106の3LL細胞をマウス足底部へ移植して7日後に60Gyの局所照射を行い,さらに7日後に肺転移数を検討した結果,対照群と比較して有意に増加していた.そして,麻酔や原発巣に対する機械的刺激などや散乱線の影響を検討したが,これらによる肺転移促進効果は認められなかつた.局所照射された原発巣を照射直後,1日目,3日目に摘出した場合,3日おいた場合に有意な肺転移促進が認められ,照射を受けた腫瘍が3日以上マウス体内に存在する事で肺転移が促進されるものと思われた.次に,腫瘍および正常組織へ局所照射を行つて7日後の宿主脾細胞の変化をWinn assay法を用いて検討した.腫瘍,正常組織照射群の2群共に,脾細胞による腫瘍促進効果が認められ,プラスチックに対する付着性により分類した場合,腫瘍組織照射群は非付着性細胞が,正常組織照射群は付着性細胞が関与していると思われた.また,局所照射2日前にサプレーサーT細胞を抑制する作用のあるcyclophosphamideをマウスにたいして全身投与して検討した結果,腫瘍組織照射群における非付着性細胞による腫瘍増殖促進効果が抑制されており,サプレーサーT細胞の関与が強く示唆された.以上より,原発巣局所照射により肺転移は有意に促進され,その原因の1つとして,照射を受けた腫瘍の変化を介した免疫抑制細胞の誘導が考えられた.

キーワード
食道がん, 術前照射, 原発巣局所照射, 肺転移促進, supressor T cell

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