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日外会誌. 87(10): 1284-1292, 1986


原著

食道静脈瘤直達手術後の出血性胃炎の成因に関する実験的研究
-術後早期の胃血行動態面から-

久留米大学 医学部第1外科

佐谷 博俊 , 山名 秀明 , 掛川 暉夫

(昭和60年8月19日受付)

I.内容要旨
食道静脈瘤直達手術の出血性胃炎の成因解明を目的に,雑種成犬5頭を用いて肝圧縮法施行による門脈圧亢進症犬(門亢犬)を作成し,本症発生の直接部位である胃上部粘膜層において,経腹的血行遮断術がもたらす胃局所血行動態変化の検索を術後2週間にわたつて行い,同時に赤血球を介した組織への酸素需給面からの検索も合わせて検討した.この結果,胃上部粘膜層における術中,術後の組織血流量と組織酸素分圧(PtO2)変化との間には,すでに報告した臨床的検索における肝硬変性門脈圧亢進症群と,ほぼ同様な血流の改善に対してPtO2低下という矛盾した解離現象が認められた.一方,赤血球を介した組織への酸素需給面からの検索では肝圧縮術施行後,P50や2,3-DPGなどの全身的諸因子の変化は肝硬変性門脈圧亢進症類似の様相を呈し,血行遮断術後においても赤血球酸素解離曲線(ODC)の左方推移の増強や2, 3-DPGの大幅な低下と回復遷延が示され,PtO2変化との間には各々有意な相関が認められた.また血行遮断術後10日から14日目に施行した胃内視鏡検査の結果,2頭の胃上部粘膜に靡爛を認めたが,各門亢犬の主病像は萎縮性変化であり,引き続き屠殺後観察した胃上部粘膜の光顕的所見においても,明らかな虚血性変化は認められず,軽度の萎縮性変化が主体を成しており,粘膜の脆弱性が示唆された.以上の結果より,今回の実験的検索から得られた術後胃上部領域粘膜の萎縮性変化は,術後ODCの著明な左方推移と2,3-DPGの低下に起因した胃上部領域のanoxiaによるものと推察され,これが術後早期における出血性胃炎発症の1要因になり得るものと考えられた.

キーワード
実験的門脈圧亢進症, 出血性胃炎, 組織血流量, 組織酸素分圧, 赤血球酸素解離曲線

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