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日外会誌. 87(5): 488-498, 1986
原著
経胸食道離断術(Sugiura procedure)における食道壁血行動態に関する実験的・臨床的研究
I.内容要旨食道静脈瘤に対する経胸食道離断術(杉浦法)は,広範な血行遮断と食道離断よりなる.本術式においては,食道静脈瘤を消失させるに十分な血流低下と,さらに離断縫合部を良好に生着させるに最少の血流量の温存されることが必要である.そこで実験的・臨床的に本術式の食道壁血行動態の変動につき,検討を加えた.
実験的には,雑種成犬50頭を用い,左開胸下に中下部食道血行遮断と食道離断を行い,水素ガスクリアランス法による組織血流量と,消化管用Oximeterによる組織酸素飽和度の測定を行つた.下部食道の血流量は,血行遮断により約56%と有意(p<0.005)に減少し,食道離断により,さらに約18%の減少(p<0.005)を認めた.また,酸素飽和度も,下部食道において血行遮断後,約10%と有意(p< 0.005)に減少し,食道離断により,さらに約8%(p<0.025)の減少を認めた.
臨床的には,一期手術23例,二期分割手術(経胸操作)63例において,術中,食道壁酸素飽和度を測定した.一期手術では,中下部食道・胃上部血行遮断により,裂孔部直下の食道で,血行遮断前値に比し約22%の減少(p<0.005)がみられ,二期分割手術では,中下部食道血行遮断により,裂孔部直上で約21%の減少(p<0.005)と両術式間で同程度の減少率であつた.また,胸腔内食道の各部位では両術式間で有意差はなく,裂孔部以下の腹部食道で一期手術において有意(p<0.01)に低値であつた.また,裂孔部での食道離断により,一期手術で離断部直下で有意(p<0.05)の低値を示し,口側食道からの壁内血行が障害された可能性が示唆された.
以上より,一期手術・二期分割手術とも,血行遮断の食道壁血行動態に及ぼす影響はほぼ同程度であり,食道離断部位については,一期手術では現行の裂行部食道よりやや胃側で行われるほうが吻合部への血流維持という点に関しては,より有効であろうと思われた.
キーワード
経胸食道離断術, 食道壁組織血流量, 食道壁組織酸素飽和度, 水素ガスクリアランス法, Sugiura procedure
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