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日外会誌. 87(1): 10-19, 1986


原著

血漿交換療法の癌治療効果に関する実験的検討

順天堂大学 第1外科学教室(主任:城所 仂教授)

鈴木 正明

(昭和60年1月25日受付)

I.内容要旨
新鮮凍結血漿と患者血漿を置換する血漿交換療法は,原理的には患者血漿中に増加している物質を稀釈減少させ,かつ不足している物質を補充することにより全体として血漿中の種々の物質の成分比を健康体のそれに近づける作用,つまり総合的な正常化作用をもつ治療法であると表現できる.この様な方法を担癌患者に行なつた時,どの様な治療効果が得られるのかについては,臨床的にもまた実験的にも未だ十分な検討が行なわれていない.そこで著者らは,担癌動物を用いてこの方法の効果に関する前臨床的試験を行なつた.効果の判定は,生存の延長と癌の発育に対する抑制の2点によつて行なつた.実験はラット背部皮下に移植腫瘍を作成し,無処置対照群及び化学療法を行なつた治療対照群を作りこれに対比して血漿交換単独群及び血漿交換化学療法併用群の治療効果を検討した.その結果,血漿交換単独群では腫瘍抑制効果は認められなかつたが,生存延長効果が認められた.血漿交換化学療法併用群では腫瘍抑制効果については化学療法単独群と同程度であつたが,生存延長効果については化学療法単独群よりも更に有意の延長を示した.次にIsraelらの報告に従い,血清α1acidglycoprotein(α1AGP)の測定を行なつた.その結果,血清α1AGP値は腫瘍量と強い正の相関を示した.これを血漿交換実験において経時的に測定してみると,血漿交換の期間中低値を示し,終了後は再び増加した.この様なα1AGPの一時的低下は腫瘍増殖に影響を及ぼさなかつた.又全群の合計でみると生存日数とα1AGP低値維持期間との間に関連性がみられた.
以上の実験結果より新鮮凍結血漿を置換液とした血漿交換は,単独では腫瘍抑制効果はもたないが生存延長効果をもつ事がわかり,この方法は癌治療の補助療法として有効であることが示唆された.

キーワード
血漿交換療法, 新鮮凍結血漿, 集学的癌治療法, α1 acidglycoprotein

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