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日外会誌. 86(12): 1654-1663, 1985


原著

術後深部静脈血栓症に関する研究
-間欠的下肢圧迫法による予防について-

岐阜大学 医学部第1外科(指導:稲田 潔教授)

渡辺 寛

(昭和60年2月25日受付)

I.内容要旨
術後深部静脈血栓症(DVT)の予防に間欠的下肢圧迫法を行っているが,その血液線溶能におよぼす影響について検討した.当科入院患者35例に対し,1時間の両下肢圧迫前後において,肘静脈および大腿静脈より採血しユーグロブリン溶解時間(ELT)等の凝固線溶系の検査を行ない,同時に圧迫前および圧迫中の大腿静脈血流速度をDoppler法により測定した.あわせて1時間以上の開腹術を行なつた31例に間欠的下肢圧迫法を行い,その凝固線溶系の変動を測定し,31例の対照群と比較検討した.
1)1時間の圧迫前後において,大腿静脈血ELTは有意(p<0.05)に短縮し,また肘静脈血ELTも短縮傾向を示した.Fibrinopeptide Bβ15-42は若干の増加を示したが有意のものではなかつた.またα2-plasmin inhibitor,β-Thromboglobulin,血漿フィブリノーゲン量も有意の変動は示さなかつた.
2)圧迫中の大腿静脈血流速度は,圧迫前のそれに対して約180%と有意(p<0.001)の増加を認めた.
3)術後ELTは術前に比し著明に延長するが,肘静脈血ELT,大腿静脈血ELTとも第1病日では圧迫群が対照群にくらべ有意に短縮していた.第2病日においても同様の傾向を示したが有意のものではなかつた.Bβ15-42は,術後漸増を示したが,対照群,圧迫群の間には有意の差は認めなかつた.
以上より,間欠的下肢圧迫法実施により,大腿静脈血流速度が増加するのみならず血液線溶能が亢進し,それがDVT予防に関与していると考えられた.

キーワード
術後深部静脈血栓症, 間欠的下肢圧迫法, ユーグロブリン溶解時間, plasminogen activator, Fi-brinopeptide Bβ15-42

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