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日外会誌. 86(10): 1405-1416, 1985


原著

胃がん患者におけるIgG-Fcレセプター陽性T細胞の意義に関する基礎的並びに臨床的研究

広島大学 原爆放射能医学研究所臨床第2(外科)部門(指導:服部孝雄教授)

板垣 衛治

(昭和59年12月13日受付)

I.内容要旨
胃がん患者におけるTγ細胞の意義を把握するために,基礎的及び臨床的研究を行なつた.
基礎的研究:Tγ細胞のPhytohemagglutinin(PHA),Pokeweed mitogen(PWM)に対する幼若化反応は,Tnon-γ細胞に比して著明に低下していたが,Concanavalin-A(Con-A)に対する反応は高く,Tnon-γ細胞と同程度であつた.Tγ細胞はCon-Aの刺激によりサプレッサー細胞活性が誘導された.また,胃がん患者からのTγ細胞はCon-Aの刺激なしでもサプレッサー細胞活性を有し,生体内ですでに活性化されていると考えられた.一方,同種培養腫瘍細胞に対する細胞障害活性(natural cell-mediated cytotoxicity)もTγ細胞に認められたが,胃がん患者のTγ細胞では胃がん細胞KATO-IIIに対する細胞障害活性は低下していた.すなわち,Tγ細胞はサプレッサー細胞活性と細胞障害活性の両者の機能を有する多様性に富む細胞群であるが,胃がん患者ではサプレッサー細胞活性が優位になつていると考えられた.Tγ細胞の表面抗原は,OKT3:73%,OKT4:29%,OKT8: 43%とOKT8が優位であつた.Tγ細胞をOKT8陽性細胞(TγOKT8)とOKT4陽性細胞 (TγOKT4)に分画するとTγOKT8分画にサプレッサー細胞活性が認められた.
臨床的研究:Tγ細胞の増加は,病期の進行と正の相関をしていた.Tγ細胞の局在性は,脾臓に多くリンパ節には少なかつたが,転移陽性リンパ節では転移陰性リンパ節に比して有意に上昇していた. 正常者T細胞を胃がん患者血清で培養すると,サプレッサー細胞活性の出現とIgG-Fcレセプターの増加が認められた.
以上の結果から,胃がん患者におけるTγ細胞の一部は,サプレッサー細胞として機能しており, がんの進展に伴ないその増加と活性化がおこつていると考えられた.また,この免疫抑制機序には, 脾臓と血清が関与している可能性が示唆された.

キーワード
胃がん, Tγ細胞, サプレッサー細胞活性, 細胞障害活性, モノクローナル抗体

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