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日外会誌. 86(6): 752-761, 1985


原著

浸潤型胸腺腫及び胸腺関連腫瘍の外科治療成績

神戸大学 第2外科

坪田 紀明 , 山下 長司郎 , 石井 昇 , 良河 光一 , 青垣内 龍太 , 安岡 俊介 , 中村 和夫

(昭和59年9月5日受付)

I.内容要旨
神戸大学第2外科で最近15年間に行われた胸腺腫瘍64例のうち浸潤型の28例に対する外科治療成績につき検討した.①浸潤型胸腺腫15例;切除された7例は全て最近4年以内の症例で,そのうち5例は大静脈再建を,2例には胸壁合併切除が必要であつた.他の8例は切除不能となつたが,播種の2例を除くと残り6例はいずれも初期の症例で現在では合併切除の対象と考えられた.予後は14年生存中の播腫例をはじめ,一般に他臓器の悪性腫瘍に比し良好であつた.しかし死亡した3例はいずれも非切除例であつた.本疾患の浸潤形態として,胸膜,肺,心囊への浸潤,胸腔内播腫の他に,i)大静脈外膜浸潤,内膜正常,ii)胸腺静脈から血管内侵入,大静脈内ポリープ状発育,iii)胸壁浸潤,iv)心囊内播腫,などがあり,これらは浸潤は高度でもいずれも拡大手術にて全剔出をめざす事が出来る所見であつた.②carcinoid 2例;1例は人工血管を用いて上大静脈を置換し,全剔出を行つたが2年で死亡,他は全切除後2年の現在健在である.③malignant lymphoma 2例;化学療法と手術療法の組み合せが奏効したかに見えたが1例は3年で死亡,他の1例は全切除後1年半,担癌生存中である.④germ cell tumor,i)seminoma 3例;2例(全切除例と部分切除例)は再発と放治,化療を繰り返しながら5年,12年健在で1例はfollow upが不十分となり死亡した.ii)nonseminomatous tumor 6例;胎児癌の3例には放治とCDDPを投与し拡大手術を行つたが1年以内に1例死亡.1例担癌生存中,1例のみがdisease freeである.悪性奇型腫等の3例は,治療に全く反応しなかつた.人工血管は7例(11本)に用い,最長4年の開存を含め,術後1ヵ月の血管造影にて開存率92%であつた.本疾患群に対する治療に際しては,上記の様な拡大手術と組織型に応じた術前後の放治,化療を行い長期にfollow upすることが肝要である.

キーワード
浸潤型胸腺腫, 拡大手術, 人工血管, 上大静脈症候群

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