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日外会誌. 86(6): 738-751, 1985


原著

急性門脈遮断時および解除後の全身血行動態と酸素需給動態に関する実験的研究

名古屋大学 第2外科(指導:近藤達平教授)

星野 澄人 , 野浪 敏明

(昭和59年9月22日受付)

I.内容要旨
急性門脈遮断時および遮断解除後の全身血行動態と酸素需給動態について実験的研究を行なつた.雑種成犬を用い静脈麻酔下に開腹し門脈を遮断した遮断群,門脈遮断と同時に門脈血を抗血栓性カテーテルにて大腿静脈ヘバイパスしたバイパス群,また大腿動脈より急速に脱血を行なつた脱血群,さらに門脈遮断解除後の病態を検討する目的で,門脈遮断15分,30分,45分後に遮断解除を行なつた15分,30分,45分遮断群を各々作成した.30分遮断群については,門脈遮断と同時に上腸間膜動脈も遮断した上腸間膜動脈同時遮断群と門脈遮断時および解除後の全身循環改善の為dobutamine投与群も加え検討した.各群ともSwan-Ganz catheterにより全身血行動態と酸素需給動態の測定を行ない,遮断群,バイパス群,脱血群では,遮断または脱血90分迄,遮断解除を施行した群では解除後6時間迄経時的に測定を行なつた.
各群5頭ずつの実験における術後7日以上の生存率は各々,遮断群0/5,バイパス群5/5,脱血群5/5,15分遮断群4/5,30分遮断群2/5,45分遮断群0/5,上腸間膜動脈同時遮断群2/5,dobutamine投与群5/5であった.
遮断群と脱血群の比較検討より,遮断群では早期にはsplanchnic sequestrationによるhypovolemiaがその主体であり,遮断時間が長くなるにしたがつて心機能低下と酸素需給関係の破綻が認められた.バイパス群では腸管のうつ血が防止され血行動態の変動は軽度であつた.15分,30分,45分遮断群の遮断解除後の検討より遮断時間が長くなる程,高度の心機能低下と酸素需給動態の代償不全が認められた.上腸間膜動脈を同時に遮断しても遮断解除後の血行動態と酸素需給動態は改善されなかつた.DOB投与群では,遮断解除後の血行動態と酸素需給動態は改善され実験犬の予後が向上した.以上より門脈遮断は門脈体循環バイパス下に行なうことが最も望ましいと考えられるが,それが不可能な場合にはdobutamine投与による循環改善が極めて有用であると考えられた.

キーワード
急性門脈遮断, 全身血行動態, 酸素需給動態, 門脈体循環バイパス, 循環改善

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