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日外会誌. 86(6): 725-737, 1985


原著

膵切除後の膵腸吻合術式に関する実験的並びに臨床的研究
-創傷治癒過程と術後膵機能を中心として-

慶応義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

笛木 和彦

(昭和59年10月9日受付)

I.内容要旨
膵頭部領域癌に対して行う膵頭十二指腸切除後の再建術式のうち膵腸吻合法について検討した.膵頭十二指腸切除後の残存膵処理の方法には膵管結紮術と膵腸吻合術があるが,残存膵は消化管と吻合すべきか否か,さらに吻合する場合には,どの吻合方法が優れているかを知る目的で実験研究を行い,また臨床例に関しても検討した.
1〕残存膵の膵腸吻合の必要性に関して
雑種成犬40頭を用い,主膵管と副膵管を共に結紮する膵管完全結紮群と,膵腸吻合後も外分泌機能の回復を期待し得ない膵管完全結紮3週後に膵腸吻合を行う硬変膵吻合群とを比較,検討した.検討項目は,intravenous glucose tolerance test(以下IV-GTTと略),膵Hydroxyproline量,組織像,膵瘻発生率であり,次の結論を得た.
硬変膵吻合群は,全ての項目で優れていた.膵管結紮術では,膵瘻発生率が実験例では35%と高く危険であり,残存膵が正常膵の場合は当然であるが,硬変膵でも膵腸吻合をすべきである.
2〕膵腸吻合術式に関して
雑種成犬120頭を用い,三種類の膵腸吻合法,即ち膵管粘膜吻合法,膵断端挿入法,膵管単純挿入法を行い,微細血管像,膵Hydroxyproline量,組織像,耐圧試験,縫合不全発生率,IV-GTT,pancreozymin secretin test(以下P-S Testと略)よりその優劣を検討し,次の結論を得た.
吻合部空腸漿膜筋層切除を行い,吻合部膵管露出を行わず,膵切除断端閉鎖を行わない膵管粘膜吻合法が,機能及び形態面よりみて最も優れていた.
3〕臨床例に関して
1971年1月より1982年12月まで慶大外科で経験した膵頭部領域癌142例について検討し,次の結果を得た.
膵空腸吻合法は,膵管粘膜吻合法である.縫合不全発生率は5.6%(5/90)であり,縫合不全発生5例は正常膵に近いものであり,残存膵が正常膵に近い,膵管径の細いもの程,縫合不全発生率が高かつた.

キーワード
膵腸吻合術, 膵管粘膜吻合法, 創傷治癒, 微細血管像, 膵Hydroxyproline量

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