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日外会誌. 86(6): 686-696, 1985


原著

迷走神経切離術後の胃粘膜に及ぼす十二指腸液胃内逆流の影響についての実験的研究

東京大学 医学部第3外科学教室(指導教官:近藤芳夫教授)

上西 紀夫

(昭和59年9月3日受付)

I.内容要旨
迷切後の胃粘膜の形態学的な変化,とくに十二指腸液胃内逆流が迷切後の胃粘膜に及ぼす影響について実験的に検討する目的で,Wistar系雄性ラットを用い,迷切術モデル,十二指腸液胃内逆流モデル,および迷切兼十二指腸液胃内逆流モデルを作製した.
実験開始後12週目に屠殺し,胃粘膜の肉眼的および組織学的所見,胃粘膜の厚さ,胃底腺内壁細胞数,幽門腺内ガストリン細胞数,血中ガストリン濃度,胃液pH,胃液中総胆汁酸濃度,およびアミラーゼ活性について検討を行い,以下の成績を得た.
迷切兼十二指腸液胃内逆流モデルでは,固有胃腺は萎縮し,胃底腺内壁細胞数や幽門腺内ガストリン細胞数は著明に減少していた.そして,幽門前庭部には小さな潰瘍が発生すると共に,その潰瘍の口側辺縁に嚢胞状に拡張した異所性腺管が多発した.また,幽門腺粘膜にも異所性腺管の増生,腺窩上皮の過形成,腺窩上皮の核のクロマチン濃染化,粘膜間質での炎症性細胞浸潤の著明な増強を認めた.
しかし,迷切術自体の影響をみたモデルでは血中ガストリン濃度は上昇していたが,胃粘膜の形態学的な著変は認めなかつた.
一方,迷切術を加えない十二指腸液胃内逆流モデルでは,幽門前庭部小弯に慢性胃潰瘍が発生した.そして,胃粘膜は厚くなり,固有胃腺の増生が認められた.
以上より,迷切術自体は胃粘膜に著変をもたらさないが,迷切術後の胃粘膜に十二指腸液が慢性的に作用した場合には著明な形態学的変化が生ずることを確めた.そして,その主要な変化は,固有胃腺の萎縮を伴う強い胃炎の発生,未熟かつ未分化な腺管の増生など胃粘膜構造の改変であつた.従つて,迷切兼幽門洞切除術,迷切兼幽門成形術の如く,十二指腸液が胃内に逆流するような手術術式を施行した場合には,胃粘膜に強い変化が生ずる可能性があり,定期的な経過観察が必要と考えられた.

キーワード
迷走神経切離術, 十二指腸液胃内逆流, 胃粘膜の変化, 異所性腺管

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