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日外会誌. 86(5): 613-618, 1985


原著

完全閉塞冠状動脈に対するA-Cバイパス術の検討
-とくに左室収縮力改善からみた有効性について-

土浦協同病院 心臓血管外科
*) 土浦協同病院 放射線科
**) 東京医科歯科大学 胸部外科
***) 現 独協医科大学越谷病院 心臓血管外科

長岡 秀郎 , 矢野 真 , 登内 真 , 岩田 照夫*) , 中原 秀樹***) , 坂本 徹**) , 山田 崇之***)

(昭和59年6月26日受付)

I.内容要旨
冠動脈造影上collateralを介して末梢側が造影された完全閉塞主冠状動脈に対するA-Cバイパス術の有効性について,左室収縮力の変化を中心に定量的評価を行つた.完全閉塞血管灌流域に貫壁性梗塞巣を有した9例および梗塞巣のない2例の計11例において左前下行枝(LAD)8枚および右冠状動脈(RCA)3枝にA-Cバイパス術を行い,LAD 8枝へのグラフトはすべて開存したが,石灰化などの動脈硬化性変化の強かつたRCAの2枝において術後グラフト閉塞を認めた.術中測定したグラフト血流量はグラフト開存例9枝で94.3±43.0ml/min,LAD8枝で91.1±44.8ml/minであり,対照例の非完全閉塞LAD20枝へのグラフト血流量83.0±33.8ml/minに比しむしろ高値を示し満足すべきものと思われた.一方グラフト閉塞例では20および40ml/minと低流量であつた.グラフト開存例9例について以下の評価を行つた.梗塞例7例において,左室駆出率は術前0.56±0.08から術後0.65±0.07(p<0.01)へ,MeanVcfも術前1.07±0.33から術後1.83±0.88circ/sec(p<0.02)と有意増加を示した.完全閉塞血管灌流域における左室壁部分収縮率は術前23.1±6.8から術後29.5±7.2%(p<0.01)と有意に増加した.一方,非梗塞の2例においても前述の諸指標はすべて梗塞例以上に著明な改善を示した.
以上により,collateralを介して末梢側が造影される完全閉塞LADへのA-Cバイパス術は,たとえ灌流域に貫壁性梗塞巣が存在しても,充分なグラフト血流量が得られ,開存性が良く,左室前壁,心尖部の部分収縮率は増加し左室収縮力の改善をもたらすことが判明した.

キーワード
完全閉塞冠状動脈, A-Cバイパス術, 左室収縮力, 左室壁部分収縮率

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