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日外会誌. 86(5): 527-533, 1985


原著

肺で産生する心筋抑制物質と、それに対するプロスタグランディン、トロンボキサンの影響について

国立熊本病院 外科

宇都宮 高賢 , 岡部 正人 , 並川 和男 , 高城 克義 , 由布 雅夫 , 川村 亮機

(昭和59年8月7日受付)

I.内容要旨
肺は,プロスタグランディン(PG)を含めた血管作動性物質の産生の場でもあり,種々の肺刺激時に心筋抑制物質が産生される.この産生機序を解明するために,左肺下葉を使つて潅流実験を行い,陽圧呼吸時に産生される心筋抑制物質について,in vitroで実験を行つた.
雑種成犬16匹を使い,何ら処置をせず,5時間の潅流を行つた群(5匹),潅流実験中血小板凝集抑制因子であるPGI21μg/minの投与を行つた群(6匹)と,PGI2を投与するとともに左下葉摘出前にibuprofen12.5mg/kgを投与しPG産生を抑制した肺を使用した群(5匹)に分けて実験を行つた.
コントロール群では,潅流開始4時間目の血漿によりsarcoplasmicreticulum(SR)のCa++-ATPase,Mg++-ATPase活性の抑制がみられた(p<0.01)が,myofibril-ATPaseには変化を及ぼさなかつた.乳頭筋収縮力は32%低下させた.PGI2単独投与群では,SR-ATPase活性の抑制は2時間目の血漿よりみられ,5時間目では,30%の活性抑制をきたした(p<0.05).Myofibril-Mg++-ATPase活性にも抑制がみられた(p<0.05).乳頭筋収縮力は39%低下した.Ibuprofen処置群では,PGI2の投与時にもSR-ATPase,myofibril-ATPaseの活性抑制はみられず,乳頭筋収縮力にも影響を与えなかつた.
6-Keto-PGFの血中濃度は,コントロール群で有意な変化はなかつたが,PGI2群,ibuprofen+PGI2群では,5.90ng/ml,5.88ng/mlと上昇した(p<0.001).心抑制物質であるTxB2濃度は,コントロール群で有意な変化をきたさないものの,PGI2群では著明な上昇を示し,ibuprofen処置群では,有意な低下を示した.
肺より産生する心筋抑制物質は,SR-ATPase活性を抑制する物質であり,PGの投与,又は産生防止により,影響を受けるといえる.また,従来より言われている肺刺激時にみられる心筋抑制物質についても比較検討した.

キーワード
心筋抑制物質, プロスタグランディン, トロンボキサン, Adenosine triphosphatase


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