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日外会誌. 86(3): 280-289, 1985


原著

実験食道癌の発生に及ぼす性ホルモンの影響

大阪大学 医学部外科学第2講座(主任:森  武貞教授)

小林 研二

(昭和59年5月8日受付)

I.内容要旨
食道癌の発生率は女性では男性に比べて著しく低く,切除後の予後も女性で明らかに良好である.これらの性差を生じさせる主たる要因として性ホルモンを考慮し,ラット実験食道癌の発生・増殖過程に及ぼす性ホルモンの影響について検討した.Wistarラットを用い,0.25%N-methylbenzylamine(MBeA)と0.16%NaNO2混入の餌を100日間経口投与した群と,2.5mg/kg N-methylbenzylnitrosamine(MBeN)を毎週1回16週間皮下注射した群とを作成し,これらのラットに各種性ホルモン処置を施した.食道癌の発癌率は経口投与群においては,性ホルモン無処置雄で42.9%(6/14匹)と高率であるが,去勢雄30.0%(3/10匹),estradiol投与雄18.2%(2/11匹),去勢・estradiol投与雄0%(0/13匹)と,女性ホルモン優位となるような処置を施すと順次低下した.一方,雌ラットでは性ホルモン無処置雌で8.0%(2/25匹)と低率であるのに対し,去勢雌33.3%(3/9匹),testosterone投与雌33.3(3/9匹),去勢・testosterone投与雌36.4%(4/11匹)と,男性ホルモン優位となるような処置を施すと上昇した.皮下注射群ラットにおいては,性ホルモン無処置雄では47.1%(8/17匹)と高率であるがMBeN投与前に去勢(初期去勢)し,estradiolを投与した雄では14.3%(2/14匹)と,女性ホルモン優位の処置により発癌率は低下した.また発癌物質の代謝が終了した時期に去勢(後期去勢)し,estradiolを投与した雄でも23.1%(3/13匹)と性ホルモン無処置雄に比べて低下した.一方,雌ラットでは性ホルモン無処置雌が7.7%(1/13匹)と低率であるのに比べ,初期去勢・testosterone投与雌では33.3%(3/9匹)と上昇した.しかし,後期去勢・testosterone投与雌では12.5%(1/8匹)と殆んど上昇しなかつた.次にMBeNの代謝過程における性ホルモンの影響をラット肝をモデルとして検討したところ,男性ホルモン優位の状態では代謝活性化は促進され,女性ホルモン優位の状態では抑制された.
以上のことより,ラット実験食道癌では発癌物質投与中の時期においては女性ホルモンが発癌に対して抑制的に,また男性ホルモンが促進的に働くことが示され,さらに,発癌物質の代謝が終了した時期においても,女性ホルモンは抑制的に働くことが示唆された.

キーワード
実験食道癌, 食道癌における性差, 性ホルモン, 変異原性テスト


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