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日外会誌. 86(1): 73-83, 1985


原著

膵癌と慢性膵炎における膵内分泌機能障害の発生機序について

久留米大学 第2外科教室(主任:古賀道弘教授)

桑原 義明

(昭和59年3月2日受付)

I.内容要旨
開腹手術をうけた膵癌患者20例,慢性膵炎患者15例,対照患者17例の経静脈性糖負荷(IV-GTT)による門脈血,末梢血のインスリン分泌,酵素抗体法による膵島の変化を検索し,膵内分泌機能障害の発生機序を形態,機能の両面から比較検討を行い,次のような結果を得た.
1.膵内分泌機能障害に関与する膵島の形態学的変化として,膵癌では癌による膵島の破壊と残存膵の随伴性膵炎にともなうB細胞の変性,膵循環動態の乏血性変化が原因と思われる膵島数の減少,膵島の萎縮,膵島の空胞化を認めた.慢性膵炎では線維化にともなうB細胞の変性消失と膵再生による膵島数の増加を認めた.
2.B細胞の形態学的定量の指標として,B細胞Index(膵島出現率×膵島直径×膵島内細胞密度/100×B細胞占拠率/100)を算出し,総インスリン分泌の指標である門脈血Σ60’0’IRIとの関係を検討した.対照と慢性膵炎は正の相関傾向をしめし,膵癌は門脈血Σ60’0’IRIに100/残膵率を乗じ,癌占拠量を補正した値と正の相関傾向をしめし,形態と機能の相関を認めた.しかし,B細胞Indexに対する門脈血Σ60’0’IRIの割合は対照>膵癌>慢性膵炎の順であり,膵癌と慢性膵炎において,形態に比べ機能が低下し,B細胞単位あたりのインスリン分泌能の低下,線維化によるインスリンの門脈血移行障害が示唆された.また慢性膵炎のInsulinogenic Index(I. I.)は低く,線維化が高度になるにしたがい,初期インスリンの門脈血移行の遅延を認めた.
3.膵癌と慢性膵炎において,門脈血Σ60’0’IRIは低く,糖処理係数(K値)も低値であり,インスリン分泌の量的減少による耐糖能障害を認め,肝でのインスリン摂取率は高かつた.また膵癌の門脈血Σ60’0’IRIに対するK値は低く,インスリン単位あたりの糖処理能が低下していた.

キーワード
膵癌, 慢性膵炎, 膵内分泌機能, 膵島, 門脈血インスリン

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