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日外会誌. 85(12): 1591-1596, 1984


原著

低血糖発作を生じた原発性肝細胞癌の1治験例

浜松医科大学 第2外科
1) 浜松医科大学 第2病理
2) 浜松医科大学 第2内科
3) 菊川病院 内科

北澤 正 , 中村 達 , 佐野 佳彦 , 飛鋪 修二 , 阪口 周吉 , 前田 松喜1) , 室 博之 , 倉八 博之2) , 山本 和利3)

(昭和59年2月18日受付)

I.内容要旨
症例は68歳男性.主訴は低血糖発作,飲酒量減少である.空腹時血糖は35-40mg/dlに下降して,発作をくり返した.精査の結果,低血糖惹起性の巨大原発性肝細胞癌と診断した. 腫瘍は右肝3区域の全域を占拠し,下大静脈造影では肝部下大静脈の閉塞を疑われたが,術中所見では膨張性発育による圧排のみであったため, 肝鎌状間膜の約1.5cm左側で切断する右肝3区域切除術により切除しえた. 切除肝重量は1,200gで,術後空腹時血糖,及びO-GTT下の血糖,IRI変動は正常化した. 癌組織中のimmuno-reactive insulin活性は陰性であったが,水中で沸騰させた後酢酸処理した抽出物をラットに経静脈的に投与した結果,約20分後に血糖の低下を認めた. このことにより腫瘍にinsulin-like activityの存在が示唆された.
Paraneoplastic syndromeの一つの低血糖を伴う肝細胞癌は一般に肝硬変を合併し, 巨大なことが多く切除不可能例が大半である.本症例は肝硬変がないので,技術的に困難な点はあったが積極的に切除した.術後12カ月の現在,低血糖発作はなく社会復帰している.本邦で低血糖惹起性肝癌の切除例は2例目である.

キーワード
肝細胞癌, 低血糖発作, insulin-like activity


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