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日外会誌. 85(12): 1508-1517, 1984


原著

徐放性制癌製剤 5-Fluorouracil-Polyglycolic Acid 複合体の基礎的ならびに臨床研究

金沢大学 第1外科教室(主任:岩 喬教授)

平野 誠

(昭和59年2月13日受付)

I.内容要旨
徐放性制癌製剤としての強靱な針(F-PGA針)について,その性状を明らかにするとともに,制癌効果及び臨床的意義について検討した.
In vitro実験では,強靱性と徐放性の点で,含有5-Fu濃度30%のF-PGA針が最も優れていることが実証され,その5-Fu放出率は1日目40.8%,3日目53.0%,10日目80.4%,24日目98.1%であった.なお5-Fu放出速度と針の長短との相関はなかった.
In vivo実験では,径1.5mm,長さ10mm,含有5-Fu濃度30%のF-PGA針(5-Fu6mg含有)を使用し,これをラットの肝,皮下および腫瘍内に刺入し, 5-Fuの放出速度を調べた.一方,制癌実験では, AH130細胞1×107個/0.1mlを側腹部皮下に移植した雄性ドンリュウラット(5週齢)を担癌個体とし(1群6匹),一定の大きさに増殖した腫瘍内にF-PGA針を1本宛埋めこみ検討した.
実験成績は次のごとく要約される. 1)5-Fu放出率は埋めこみ部位によつて差異はなく, 1日目で66±4%,9日目に98%に達した. 2)肝埋めこみ後の病理組織学的検討では, F-PGA針周囲約2mmの範囲に5-Fuの放出量に相関して高度の壊死・変性像がみられた. 3)腫瘍内にF-PGA針を埋めこんだ場合,腫瘍内5-Fu濃度は漸次上昇し, 24時間後に最高値16.00±1.98μg/gを示したが,血中5-Fu濃度の最高値は90分後で0.96±0.08μg/mlにとどまった. 4)同一条件下において認められる抗腫瘍効果は著明で,その抑制率は97.6%であり, 5-Fu静注群の1.4%に対比して有意に高値であった.
臨床末期癌10例についての検討では,胃癌肝転移5例,その他リンパ節・膵・皮膚の転移巣にF-PGA針を刺入した.その結果,腫瘍縮小が2例に認められたが,副作用は全く認められなかった.
以上より, F-PGA針は安全でしかもきわめて効果的な徐放性制癌製剤と考えられ,切除不能固型癌に対し広く適用しうるものと思われる.

キーワード
制癌剤の剤型変換, 生体内吸収性高分子, ポリグリコール酸, Dexon, 徐放性制癌製剤

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