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日外会誌. 85(7): 719-728, 1984


原著

門脈遮断時の腸間膜微小循環に関する実験的研究

名古屋大学 医学部外科学第1講座座(指導:弥政洋太郎教授)
名古屋保健衛生大学 医学部外科(指導:三浦馥教授)

宮川 秀一

(昭和58年9月21日受付)

I.内容要旨
門脈遮断の腸間微小循環に及ぼす影響について実験的研究を施行した.
雑種成犬3頭を静脈麻酔下に開腹した(開腹群).同様に雑種成犬10頭を開腹し,門脈を結紮した(単純遮断群). 同様に雑種成犬10頭を抗血栓性カテーテル(Anthron bypass tube)を用いて門脈血を大腿静脈ヘバイパスしたのち門脈を結紮した(バイパス群).各群について万能倒立顕微鏡を用いて腸間膜微小循環の変化を経時的に観察した.併せて腸間膜微小血管内皮細胞および小腸粘膜絨毛突起の超微形態の経時的変化を電子顕微鏡学的に検索した.
単純遮断群では,遮断後15分で種々の微小循環障害が出現し,時間の経過とともに顕著となった.なかでも微小循環の血流は遮断後15分で毛細血管網,30分で細静脈,60分で細動脈において停止した.また腸間膜の出血巣は,細静脈を中心に認められ,経時的に増大した.微小血管内皮細胞は15~30分でミトコンドリアの膨化,クリスタの消失,接合部の離開,基底膜からの遊離などの障害を示し,小腸粘膜絨毛突起は30分前後で先端部の膨化や破裂を認め,これらの変化は時間が経過するにつれて顕著となった.このことより門脈単純遮断時には門脈血のうつ滞が早期に微小循環の破綻をひきおこして,微小血管や小腸粘膜の急速かつ広範な障害が進行し,複雑な病的機序が形成されて不可逆性変化をきたすものと推察された.これに対してバイパス群では4時間を経過しても微小循環の障害は軽度で,微小血管や小腸粘膜の障害も認められず,開腹群との差を認めなかった.このことより抗血栓性カテーテルによる門脈血の大腿静脈へのバイパス法は安全な門脈遮断法と考えられた.

キーワード
門脈遮断, 腸間膜微小循環, 血管内皮細胞, 小腸粘膜微絨毛, 門脈-大腿静脈バイパス

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