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日外会誌. 85(5): 415-420, 1984


原著

開心術後の尿細管障害β2-ミクログロブリンを指標として

名古屋大学 第2外科
*) 県立多治見病院 心臓外科
**) 市立岡崎病院 外科

安間 文彦 , 保浦 賢三 , 岡本 浩 , 宮崎 正治 , 廣瀬 豊 , 阿久根 淳 , 近藤 達平 , 小川 裕*) , 関 章**)

(昭和58年6月8日受付)

I.内容要旨
β2-ミクログロブリン(BMG)を指標として開心術後の尿細管機能について検討を加え以下の結論を得た.検討対象は,開腹術14例(I群),開心術36例(II群)である.
1. 尿BMG濃度(U-BMG)は,I群では術後1日と2日,II群では人工心肺中より術後5日まで上昇し,以後術前値に回復したが,両群とも術後一過性に尿細管障害を発症することを示した.I群よりもII群は,U-BMGの異常値出現頻度,その程度とも大であり,異常値は術後遷延する傾向にあった.これは,開心術後の尿細管障害は,開腹術後のそれと比べると重篤であり,障害も遷延するためと考えられた.
2. II群,術後7日にU-BMGが異常高値を示した例を尿細管障害遷延例(13例)とし,非遷延例(21例)との間で,尿細管障害遷延に影響する因子について検討した.検定を行なった21項目のうち両者間に有意差を認めた項目は,術前の血中尿素窒素,尿浸透圧の2項目のみであった.術前の腎機能の指標である血清BMG濃度,U-BMG,クレアチニンクリアランス(C-er),自由水クリアランス,従来開心術後急性腎不全発症の危険因子とされていた大動脈遮断時間,人工心肺時間などは,両者間に有意差を認めず,尿細管障害の遷延に単一の因子としては直接影響を及ぼさないと考えられた.
3. 開心術症例で,糸球体機能の指標としてC-cr,尿細管機能の指標としてU-BMGを用いて両指標の関連を検討した.II群36例で,C-cr,U-BMGを同時に測定し得た305回の成績を対象としたが,両者間に有意な相関を認めなかった.305測定値中96個にC-crの正常値を認めたが,このうちU-BMGの35測定値は,異常値を示した. これはC-crで腎機能正常とされた中で,36.5%(35/96)に尿細管障害を認めたことを意味する.尿細管障害は,開心術後急性腎不全の潜在的な危険因子と考えられるため,U-BMGを測定し,糸球体機能,尿細管機能の両面から,開心術後の腎機能を総合的に把握することが望ましいと思われた.

キーワード
尿細管障害, β2-ミクログロブリン, 開心術後腎機能

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