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日外会誌. 85(3): 218-224, 1984
原著
甲状腺髄様癌の時間学
I.内容要旨適切な治療方針を決定するためには,一般にその腫瘍がどのような時間的経過で進展するのかを知ることが大切であるが,甲状腺髄様癌については,まだよく知られていない部分が多い.そこで,極めて鋭敏な腫瘍マーカーである血中カルシトニン値を指標として検討を行い,以下の結果を得た.
術後の血中カルシトニン値による腫瘍の遺残の有無の検討により遺伝性髄様癌においては,リンパ節転移がなく,30歳以下で,腫瘍重量5g以下のものでは,手術によって,腫瘍が完全に摘出できる可能性が高いことが分つた.散発性髄様癌においては,術後のカルシトニン値の正常化率は,リンパ節転移の有無とは関係があったが,年齢とは無関係であつた.遺伝性群においては,リンパ節転移のない症例はある症例より,平均年齢で約9歳,年齢分布のピークで15歳若年であり,リンパ節転移を生じるのに10~15年を要するものと推測された.一方,散発性群では,両群に年齢差はみられなかった.
次に,術後の血中カルシトニン値が高値で腫瘍が遺残していると判断された23症例について,その時間的変動を調べたところ,血中カルシトニン値は指数関数的に変動することが分り,個々の症例の血中カルシトニン値のdoubling timeの長短は,その症例の手術から再発・死亡に至る経過の緩急とよく一致した.
以上より,血中カルシトニン値のdoubling timeによって,腫瘍の増殖の早さを数量的に表現することができ,その患者の予後を予測することができると考えられる.また,遺伝性髄様癌を,どの程度の時期までに手術をすれば,ほぼ完治できるかの目安が立てられた.
キーワード
甲状腺髄様癌, 時間学, カルシトニン, doubling time,
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