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日外会誌. 84(7): 648-653, 1983
原著
突発性大量血尿を生じた腸骨動脈尿管瘻の1例
I.内容要旨動脈尿管瘻の報告は少なく,文献的にみると大出血や腸閉塞,骨盤内膿瘍,敗血症などの合併症により致命率が高い.著者らは動脈尿管瘻に起因した突発性大量血尿によるショックで来院した症例を経験し,外科的治療で救命し得たのでここに報告する.
上肢の動脈拍動消失を初発症状として加療中の非特異性血管炎の患者に,左総腸骨動脈狭窄が生じたため人工血管パッチにて血行再建を行なつた. 1年4カ月後に突然大量血尿が起こつて来院し,緊急入院となつた.輸血と安静にて止血したので精査を行なつたところ,腎孟撮影その他で左腎機能廃絶が見出され,次に左側の逆行性尿管造影を施行中に再び大量血尿を惹起し,ショック状態となつた.その尿管造影像で,前回手術の左腸骨動脈パッチ部に左尿管が癒着したための水腎症が見出された.加えて尿管内の造影剤が一部動脈内に流入している所見があつた.すなわち大量血尿はパッチ縫着部に形成された動脈尿管瘻からの出血とわかつた.緊急手術を行なつた,一応ショックが改善されていたのでまず左下肢への血行を右大腿からの人工血管F-F bypassにて再建し,そのあと瘻孔部を中心に腸骨動脈と尿管および左腎を切除した.患者は創の治癒遷延もなく,バイパス血行も良好で軽快退院した.
本症例の発生機序は,まずパッチ部への尿管の癒着に始まり,尿管閉塞からパッチ部に炎症が波及し,破裂に至つたと推測される.ただし破裂部の動脈壁に血管炎の組織所見もあり,またパッチ自身が感染源である可能性も考えられ,吻合部破裂の原因を明確に断定するのは困難かも知れない.
今回,結果的に下肢の切断も重篤な合併症もなく生存が得られたについては,術前に逆行性尿管造影により確定診断が得られていたことが大きく,それによつて手術に際し汚染された部位での血行再建を避け,まず清潔な部位でextraanatomicalに下肢へのバイパスを先に作成し,そのあと病変部にアプローチして充分に病巣の郭清を行なう術式をとることができ,それが良好な結果をもたらしたと考えている.
キーワード
動脈尿管瘻, 大量血尿, 人工血管パッチグラフト
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