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日外会誌. 84(5): 392-403, 1983


原著

De Bakey III型解離性大動脈瘤に対するextended aortic bypass手術
-実験的研究と臨床応用-

秋田大学 第2外科(主任 阿保七三郎教授)

猪股 昭夫

(昭和57年10月4日受付)

I.内容要旨
De Bakey III型解離性大動脈瘤の手術成績が向上しない主な原因は,大動脈瘤壁の脆弱性に基づく術中出血による止血の困難性,吻合部出血であり,過大な手術侵襲もその一因である.これは病変部で手術操作を行うために生じるものであり,手術成績を向上させる目的で,病変部での手術をできるだけ回避し, しかも病変部を補強させる手術方法として,瘤をその病変起始部で切離し,大部分の瘤を空置して,健常下行大動脈あるいは上行大動脈から腹部大動脈あるいは腸骨動脈へextended aortic bypassを行い,逆行性血流により下行大動脈瘤遠位断端部のthromboexclusionを期待する手術に着目した.
実験的に, 22頭の雑種成犬を用いて,下行大動脈から腹部大動脈へextended aortic bypassを行い,近位吻合部直下で下行大動脈を切離し,両断端部を縫合閉鎖した.術後24時間以降生存した15頭の剖検では,下行大動脈遠位断端部は,術後3カ月以内に血栓器質化が進行するが, thromboexclusionは腹腔動脈分岐上部に限られ,それ以上進行しないことが確認された.
臨床的に, DeBakey III型解離性大動脈瘤の4例にextended aortic bypass手術を行い, 2例に良好な結果を得た.この2例の術後血管造影所見及び術後経過から本術式の有用性が示唆された.唯ーの対麻痺発生例は,すでに腹部大動脈再建術を受けていた患者にみられたことから,以前に腹部大動脈に何らかの手術操作が加わつている症例では,遺残下行大動脈のthromboexclusionが,脊髄への血行路を完全に途絶させる可能性のあることが示唆された.
thromboexclutionを期待するextended aortic bypass手術の大きな問題は, reentryを有する場合の解離腔の運命であり,今後検討されなければならない課題である.

キーワード
De Bakey III型解離性大動脈瘤, extended aortic bypass手術, thromboexclusion, 対麻痺

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