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日外会誌. 83(11): 1275-1283, 1982
原著
僧帽弁置換術における心筋保護GIK-cardioplegiaとK+-Mg2+-cardioplegiaの比較
I.内容要旨僧帽弁疾患には,手術により血行動態が改善された後も左心機能の改善が認められない症例や,術前よりさらに増悪する症例も少なくない.この原因の一つに開心術中,特に大動脈遮断時および血液再灌流時における心筋障害が考えられる.本研究の目的は,従来より教室で使用していたGIK-cardioplegdaと独自に開発した K
+-Mg
2+-cardioplegiaの僧帽弁置換術 (MVR)症例における心筋保護効果を判定することで,心筋超微形態・血行動態および生化学的な面を総合し検討した.
方法) MVRを施行した症例19例〔GIK-cardioplegia群(GIK群) 13例, K
+-Mg
2+-cardioplegia群(K-Mg群) 6例〕を対象とした.全身低体温(25℃)体外循環下に心筋局所冷却法を併用し,心筋保護液を80~100mmHgの圧力にて注入しcardioplegiaとした. MVR終了後,虚血60分に左室前乳頭筋を切除し,各症例につき6枚の電子顕微鏡標本を作製し, ミトコンドリア形態を中心に半定量的評価を試みた.血行動態の測定は,体外循環開始前,大動脈遮断解除後3, 6, 10, 18および42時間の計6回行ない,各時点でのカテコラミン使用量にも留意した.さらに心筋由来iso-enzymeの測定を体外循環開始前,大動脈遮断解除直後, 6および18時間後に行なつた.
結果)63~143分間の大動脈遮断が行われたが,両群とも術後極度の低心拍出症候群となつた症例はなかつた.半定量法による心筋超微形態の比較では, K-Mg群において, GIK群と比較してミトコンドリア形態は良好に保存され,心筋浮腫も軽度であつた.またcardioplegia後42時間におけるLeft ventricular stroke work indexは, K-Mg群が有意に高値を示した.心筋由来のiso-enzymeは両群とも術後有意に上昇したが両群間に有意差は認められなかつた.
結論) GIK-cardioplegia,K
+-Mg
2+-cardioplegiaともMVRにおける有効な心筋保護法であるが,K-Mg群において心筋超微形態が良好に保存され,血行動態も良好であつたことからK
+-M
2+-cardioplegiaがGIK-cardioplegiaよりMVRにおいてさらに優れた心筋保護法であることが示唆された.
キーワード
僧帽弁置換術, 心筋保護, cardioplegia, 心筋超微形態
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