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日外会誌. 83(10): 1199-1208, 1982


原著

乳腺組織培養細胞多核形成率と組織悪性度に関する研究

横浜市立大学 医学部第1外科学教室(指導:松本昭彦教授)

麻賀 太郎

(昭和57年3月31日受付)

I.内容要旨
乳腺各種疾患の初代培養細胞にcytochalasin Bを投与し,その多核形成率の違いから良性,悪性を判定する方法について,さらに本法が乳腺疾患の良性,悪性境界病変の研究に有効な方法であるかどうかについて検討した.
培養細胞の増殖の検討
乳腺組織の培養は細胞分散に0.1%コラゲナーゼを使用し,増殖促進物質としてインシュリン,ヒト初乳およびコレラ毒素を培地中に加えた.乳腺各種疾患の細胞増殖は癌の19例中17例(89%)に,乳腺症の11例中10例(91%)に,線維腺腫の4例中4例(100%)に,正常乳腺の2例中2例(100%)に認められ,大部分の症例で細胞の生着,および良好な増殖を示し,3H-thymidineの取り込みも良好であつた.ヒト初乳未添加培地では細胞増殖率,3H-thymidineの取り込みともにヒト初乳1~5%添加培地に比べて低く,ヒト初乳には上皮細胞増殖作用の存在することを認めた.細胞分裂の確認のため姉妹染色分体の分染染色を行つたところ,培養5日間に2回の分裂を行つていることが確認された.上皮細胞の同定は形態学的に行い,電顕観察で微絨毛(microvilli)や結合複合体(junctional complex)などの上皮細胞の特徴を確認した.
乳腺各種疾患培養細胞のcytochalasin B投与による多核形成率
cytochalasin B投与による多核細胞形成率は癌13例で6.1±2.7%,乳腺症12例で0.81±0.68%,線維腺腫6例で0.75±0.44%,正常乳腺2例で1.1%であり,悪性疾患と,良性疾患および正常乳腺の間でその細胞多核率に有意差を認めた.癌症例の多核率を病期別にみると,Stage IはStage II以上に比べて低い傾向が認められた.cytochalasin B投与による細胞多核率は細胞の良性,悪性の生物学的性質を現わすものと考えられる.本法は形態学的に良性,悪性の判定困難な症例,および前癌病変の存在の有無の検討などに応用できる有効な方法と考えられた.

キーワード
多核細胞, cytochalasin B, ヒト初乳, ヒト乳腺組織の培養, 乳腺の境界病変

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