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日外会誌. 83(8): 783-798, 1982


原著

合成代用血管の組織治癒に関する生化学的研究

旭川医科大学 第1外科

池田 浩之

(昭和57年3月31日受付)

I.内容要旨
各種合成代用血管を雑種成犬皮下および腹部大動脈へ移植し,組織学的ならびにムコ多糖を指標とする生化学的検討を加え,さらに補強自家結合織代用血管の臨床的検討から,以下の諸点を明らかにしえた.
1.皮下植込み材料について
(i)組織学的に組織治癒が完了したと判定された後もムコ多糖の組織濃度ならびにヒアルロン酸の含有率は高く,生化学的にみる限り炎症反応は持続する.(ii)合成代用血管の構造により炎症に差がみられる.すなわち,線維間への組織進入が極端に制限された材料では材料表面における炎症が高度に遷延し,結合織の成熱度は低くなる.これに対し,組織進入が全く自由な補強自家結合織代用血管では,炎症反応の消褪は他の材料に比較し極めて速い.(iii)線維接触面積の殊に大きな材料(Nonwoven polypropylene sheet compounded with Dacron mesh)では,長期に亘り線維間において若い肉芽状態を呈し,生化学的にも高度の炎症反応の持続を示す.
2.腹部大動脈移植材料について
(i)組織学的にみて,線維間における器質化が皮下材料のそれよりも遅れる.(ii)皮下材料に比しムコ多糖の組織濃度は高いが,ヒアルロン酸はむしろ低い.またデルマタン硫酸に対するコンドロイチン硫酸の比の増加が認められ,さらにその程度には材料間の差がみられる.これらは血圧あるいは拍動流というストレスに対する合成代用血管周囲結合織の対応を反映したものと考えられる.(iii)移植後ほぼ完全な組織治癒のみられた補強自家結合織代用血管では,経過中ムコ多糖の構成が同一部位の大動脈壁のそれに近似してゆく事実が観察され,かかる意味からも,この代用血管は合成代用血管における組織治癒の理想的モデルの一つといえる.(iv)ヘパラン硫酸は内皮細胞の増殖,さらには弾性線維の形成に関与している可能性が示された.
3.下肢動脈閉塞患者15例(18肢)の血行再建に補強自家結合織代用血管を応用した.その成積は皮下植込み期間,すなわち結合織の成熟度と明らかな相関がみられた.
4.合成代用血管が長期にわたり良好に機能するためには,可及的早期に組織治癒を完了することが肝要である.しかし本研究から,現在臨床応用されている合成代用血管において安定した組織適合性を得ることは極めて困難と思われる.より細い動脈や静脈に応用できる材料を開発するためには,さらに多角的かつ詳細な検討が必要である.

キーワード
ムコ多糖, 異物炎, 合成代用血管, 組織治癒, 組織適合性

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