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日外会誌. 83(7): 624-634, 1982


原著

食道癌患者における術前術後の循環動態の変動に関する研究

慶応義塾大学 医学部外科
*) 現 防衛医科大学 第2外科

安藤 暢敏 , 米川 甫*) , 篠沢 洋太郎 , 渡辺 良友 , 大島 厚 , 鈴木 博 , 大高 均 , 藤崎 真人 , 阿部 令彦

(昭和57年3月18日受付)

I.内容要旨
食道癌切除100例を対象としてSwan-Ganz catheterにより食道癌患者に特有な術前術後の循環動態を分析した.対象例の年齢は62.2±9.6歳で72(M+SD)歳以上の高齢者の病態を,53(M-SD)歳以下の壮年者と比較しつつ検討した.
(1) 術前肺動脈圧の平均は17/7mmHg,平均圧11mmHg,同楔入圧4mmHg,中心静脈圧2mmHg,心拍出量4.5l/min,心係数3.0l/min,m2,全末梢血管抵抗1,789dyne,sec,cm-5で,術前循環動態の特色はhypodynamicであつた.とくに高齢群では壮年群に比べ心拍出量,心係数は有意に少なかつたが,この要因として末梢血管抵抗上昇による後負荷の増加が最も考えられた.
(2) 術前経口摂取が可能であつた症例の心係数は平均3.0l/min,m2,一方経口摂取不能で中心静脈栄養が行なわれた症例の心係数は3.7l/min,m2と最も多く,しかも心機能も良好に維持されていた.
(3) 術前から術直後にかけて循環動態が大きく変動した症例は I:循環血液量減少(43.8%),II:左室機能低下(16.4%),III:末梢血管抵抗上昇(11.0%)で,一方不変例は28.8%であつた.すなわち71.2%の症例が何らかの循環動態変動を示し,食道癌手術の侵襲の大きさを物語つている.高齢群は全例が変動を示したが,壮年群は約半数が不変であつた.術式別にみると胸部食道全摘43例中,変動例は35例81.4%であつたが,下部食道切除17例では9例52.9%で,胸部食道全摘例に変動例が明らかに多く侵襲の大きさを示唆するものである.左室機能低下例,末梢血管抵抗上昇例は不変例に比べ術後肺合併症発生率は明らかに高く,したがつて高齢者食道癌術後では呼吸と循環は表裏一体をなし,術後肺合併症の発生要因は既に術直後より潜在していると思われた.
(4) 心係数,全末梢血管抵抗,肺動脈圧の術後5病日までの変動は,高齢群では壮年群に比べその増減が著しかつた.

キーワード
食道癌, 循環動態, 術後肺合併症, 高齢者手術

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