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日外会誌. 83(3): 308-319, 1982


原著

家族性大腸ポリポーシス患者における大腸腺腫の発生点に関する研究

東京大学 医学部第2外科(指導:和田逹雄教授)

橋本 大定

(昭和56年11月10日受付)

I.内容要旨
大腸に腺腫の多発する家族性大腸ポリポーシスの大腸を用いて,肉眼的に平坦に見える粘膜(flat mucosa)について走査電顕的観察を行ったあと,その同一組織材料の完全連続切片を作成し,個々の陰窩の粘膜表面の組織形態と,その同一陰窩の粘膜内部における腺管構造について三次元的分析を行い,家族性大腸ポリポーシスにおける大腸腺腫の組織発生について考察を加えた.家族性大腸ポリポーシスのflat mucosaに存在して,現在最も小さな腺腫とされているunicryptal adenomaの陰窩開ロ部は,走査電顕的には正常の2~6倍の大きさを有しており(solitary big crypt)正五角形に近い表面形態を有する一種類の腺腫細胞が敷石を敷きつめた様に存在していた.
26個のunicryptal adenomaを三次元的に検討したところ,それらの組織形態学的特徴は大きく二種類に分けられた.
ひとつは表層上皮発芽型とでもいうべきもので,正常陰窩間の表層上皮に腺腫性上皮が発現し,それが粘膜内部に向かって発芽性に成長し,主として粘膜下部1/3で分岐するもので,検索された26個のunicryptal adenoma中17個がそれに相当した.他のひとつは正常腺管置換型とでもいうべきもので,正常腺管の腺管開口部に近い腺管上部に腺腫性上皮が発現し,主として粘膜中部1/3で分岐するもので,検索された26個中9個がそれに相当した.これらの正常腺管置換型のunicryptal adenomaでは,腺管下部の正常上皮と腺管上部の腺腫性上皮との境界部には,明瞭なfrontの形成が観察された.
二個以上の腺腫性腺管で構成される微小腺腫の発生については,発生の場の存在(多中心性発生)を考える必要があると思われる.

キーワード
腺腫の組織発生, 家族性大腸ポリポーシス, unicryptal adenoma, solitary big crypt

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