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日外会誌. 83(2): 207-219, 1982


原著

上部消化管出血に対する内視鏡的レーザー止血法に関する研究

東京大学 医学部第2外科教室(主任:和田逹雄教授)

小西 敏郎

(昭和56年10月21日受付)

I.内容要旨
近年,医学の諸領域にレーザー光線の臨床応用が広まりつつある.内視鏡の分野でもレーザー光線を伝達するflexibleな導光路が開発され,消化管出血に対して止血効果のすぐれたレーザー光線を用いる治療法が考案された.現在,内視鏡的レーザー止血法に用いられているのはNd-YAGレーザーとアルゴンレーザーであるが,本論文では両レーザーの胃壁照射による変化と安全性およびレーザー照射後に生ずる潰瘍の治癒経過を検討した.また成犬の胃に作製した出血性胃潰瘍にNd-YAGレーザー・アルゴンレーザー・電気凝固による止血を試み各法の止血効果を比較検討した.
20~50ワットのNd-YAGレーザーと3~8ワットのアルゴンレーザーの照射直後の胃壁に生ずる変化を検討すると,両レーザー照射ともに照射出力・照射時間が増大するに従い胃壁の凝固変化および欠損は深くなった.40および50ワットの高出力Nd-YAGレーザーは短時間の照射で凝固変化は深部におよぶが,胃壁の欠損は生じなかった.8ワットのアルゴンレーザー照射では比較的短時間の照射で胃壁に穿孔を生じた.50ワットのNd-YAGレーザー照射後に生ずる胃潰瘍は3週後には治癒し,6週後には僅かに搬痕を認めるのみであった.ヘパリン化された成犬の胃粘膜に作製した出血性胃潰瘍に対する止血効果はNd-YAGレーザー照射が最も良好であり,多量の出血を有する潰瘍に対してもNd-YAGレーザー照射が最も短時間で止血が得られた.組織学的に検索するとNd-YAGレーザー照射は粘膜下層に著明な凝固変化を生じ,血管の狭窄像も著明なので止血効果が良好であると考えられた.
以上の検討からアルゴンレーザーは止血効果が低くまた穿孔の危険性が全くないとはいえないので,止血効果の高い高出力Nd-YAGレーザーの短時間照射による内視鏡的レーザー止血法が消化管出血をきたしている病巣部に対して有効な止血法と考えられた.本法による臨床応用の成績についても言及し若干の考察を加えた.

キーワード
消化管出血, 内視鏡的レーザー止血, Nd-YAGレーザー, アルゴンレーザー

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