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日外会誌. 83(2): 163-174, 1982


原著

高カロリー輸液時の亜鉛動態について
-亜鉛欠乏症との関連において-

大阪大学 医学部第1外科(主任:川島康生教授)

高木 洋治

(昭和56年11月12日受付)

I.内容要旨
一定基準下に高カロリー輸液を施行した成人99症例を対象とし,血漿,赤血球,尿中亜鉛値が経時的に如何なる変動を示すかを欠乏症出現の有無との関連に於て検討した.亜鉛非投与で輸液を施行した11例に明らかな亜鉛欠乏症の出現を認めた.欠乏症出現時,血漿亜鉛値は健常人値,輸液施行前値および亜鉛投与による症状改善時に比べ有意の低値を示した.赤血球亜鉛値は欠乏症出現時,健常人値に比べやゝ低値を示したが有意ではなく,輸液施行前,症状改善時に比べても有意差はみとめられなかつた.尿亜鉛値は欠乏症出現時、健常人値、症状改善時に比べ有意の低値を示したが,輸液施行前値とは有意の差はみられなかつた.輸液開始から4週間以内での欠乏症出現群と非出現群との比較では血漿亜鉛値のみ出現群が非出現群に比べ有意の低値を示した.尿亜鉛値も出現群が非出現群に比べ低値を示す傾向がみられたがバラツキが大きく有意差はみられなかつた.赤血球亜鉛値は両群に差はみられなかつた.血漿亜鉛値が50μg/dl以上を示したものでは欠乏症の出現はみられなかつたが,50μg/dl以下では5/10(50%),30μg/dl以下では3例全例に欠乏症の出現をみた.欠乏症は良性消化器疾患,とりわけ炎症性腸疾患に多くみられた.亜鉛非投与で輸液を施行したとき,亜鉛値の経時的低下は血漿値のみにみられた.1日60μmolの亜鉛投与で経時的低下はみられなくなり,ほぼ健常域内を維持した.又投与群では欠乏症の出現はみられず,異常高値を示すものもみられなかった.
以上,高カロリー輸液を施行するにあたつて,消化器疾患では亜鉛非投与では血漿亜鉛値の経時的低下がみられ,亜鉛欠乏症の出現をみることより,積極的な亜鉛投与が必要と考えられた.1日60μmolの投与で,血漿亜鉛値はほぼ健常域内に維持され,又欠乏症の出現がみられなかつた事より,この量が1日投与量の一つの目安になると考えられた.

キーワード
高カロリー輸液, 亜鉛欠乏症, 血漿・赤血球・尿中亜鉛値

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