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日外会誌. 83(1): 88-95, 1982


原著

肝切除後の動脈血中ケトン体比の変動とその臨床的意義

京都大学 第1外科

浅野 元和

(昭和56年8月11日受付)

I.内容要旨
肝切除後,残存肝の機能は肝細胞のenergy charge levelに依存することが明らかになつているが,臨床上,このenergy charge levelを経時的に知ることが出来れば,より合理的な術後管理が可能になるものと考える.そこで,肝エネルギー産生機構である肝mitochondriaの酸化還元状態(NAD+/NADH)に注目し,これを特異的に反映する動脈血中ケトン体比(acetoacetate/β-hydroxybutyrate)の臨床的意義を検討した.ただし,この血中ケトン体比はいわゆるglucose-fatty acid cycleに従つて変動する.すなわち,脂肪酸々化の亢進時には低値を示し,糖質投与により高値となるため,本研究ではこのcycleの影響を除外する目的で充分な糖質負荷時に採血した.
測定しえた肝切除症例20例は,この血中ケトン体比の術後変動によつて3群に分類された.すなわち,血中ケトン体比が0.7以上の高値で経過したA群(8例),術後早期一過性に0.4-0.7へ低下したB群(7例),および0.4以下へ不可逆的に低下したC群(5例)である.A群では合併症が少なく順調な術後経過をたどったが,B群では血中ケトン体比の低下時に合併症が多発し,0.7以上へ上昇するとともにこれら合併症の軽快をみた.一方,C群では重篤な合併症が頻発し,全例multiple organ failureの病像を呈し死亡した.また,これら血中ケトン体比の変動は,一般肝機能検査と比較して,臨床経過をより鋭敏に反映していることが明らかになつた.
従つて,糖負荷時の血中ケトン体比の低下は肝energy charge levelの低下を意味し,これによつて肝切除後のcritical stageを的確に把握できると考える.また,この時期,通常のglucose-fatty acid cycleと異なり,血中ケトン体総量は減少しているが血中ケトン体比は上昇しえない状態が出現し,これをglucose-fatty acid cycleの破綻として把え得ると考える.

キーワード
肝切除, 残存肝機能, energy charge level, 肝mitochondria, 動脈血中ケトン体比


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