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日外会誌. 82(3): 220-229, 1981


原著

上部胃癌における食道浸潤型式に関する臨床病理学的研究

順天堂大学 第1外科(主任:城所 仂教授)

渡辺 伸介

(昭和55年8月7日受付)

I.内容要旨
上部胃癌の治療成績は,現在でも不良であり,他部位胃癌とは異なつた複雑な病態をとるが,その一つの要因として容易に食道へ浸潤することが挙げられる. 胃癌の食道浸潤は,ほとんどが食道粘膜下を波及するため,手術時の口側浸潤部位の判定に苦慮する症例にしばしば遭遇する.そこで上部胃癌の諸性状と食道浸潤型式との関係を解明し, 口側切除線の決定の手掛りを得ようと試みた. 胃上部(CMを除いたC)を占居し,食道浸潤を認めた進行癌55例を対象とした.肉眼的食道浸潤型式の分類方法は,上部胃癌の浸潤によつておこる食道粘膜面の肉眼的変化をもとに,限局・急傾斜型,限局・緩傾斜型,中間型,浸潤・びらん型, 浸潤. 平担硬化型, 浸潤・皺襞形成型の6型に分類した.組織学的食道浸潤型式は,食道胃接合部における深達度(浅層か全層か)と食道内の浸潤度(限局性か浸澗性か)により,浅層限局型,全層限局型, 浅層浸潤型, 全層浸潤型,脈管浸潤型の5型に分類した.
肉眼的食道浸潤型式では, 浸潤・平担硬化型と浸潤・皺襞形成型の2型が他の4 型に比し,肉眼的並びに組織検索による食道浸潤距離の誤差が大きく(p<0.02),肉眼的に口側最終浸潤部位の判定が難かしかつた. しかしその誤差は3cm以下であり,肉眼的に判定した癌の断端よりさらに3cmの切除が必要であるという結果が得られた.
組織学的食道浸潤型式では,全層浸潤型が最も食道浸潤距離が長く,予後も不良であり,外科的治療上問題となる型である.
肉眼的食道浸潤型式と組織学的食道浸潤型式とは互に相関関係があるため,術前内視鏡所見や術中切除標本により,肉眼的食道浸潤型式が決まれば,組織学的食道浸潤型式もある程度予測が可能であり,多くの情報が早い時期に得られることがわかつた.

キーワード
上部胃癌, 食道浸潤, 口側癌先進部位, 食道胃接合部


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