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日外会誌. 81(8): 731-735, 1980


原著

胃癌手術における予防的摘脾術の意義について

九州大学 第2外科

杉町 圭蔵 , 児玉 好史 , 井口 潔 , 神代 龍之介 , 兼松 隆之 , 福田 誠二 , 野田 尚一

(昭和55年1月7日受付)

I.内容要旨
胃全摘術においては根治性を高めるために摘脾に積極的な意見も多いが,一方では宿主の抵抗性を温存するという観点から摘脾に対し消極的な意見もある.胃癌の手術において予防的なリンパ節廓清が手術成績の向上に有効なことは今や疑うことのないところであるが,脾臓についても予防的摘脾術の考えを認容してよいものであろうか.本論文ではこの点に関し重要な資科を提供するものである.
当科において行つた胃全摘術319例を対象とし,このうち,上部胃癌の治癒切除で他臓器への直接浸潤のない摘脾群47例, 非摘脾群30例を選んだ. 両群でps(+),(-)の分布, リンパ節転移状況などは殆んど同程度であった.また,術後の化学療法は摘脾群で42.6%,非摘脾群で43.3%に行われており,その頻度に差を認めなかつた.
ps(-)例の5生率は摘脾群,非摘脾群でともに80%と良好であり, 両者間に差を認めなかつたが, ps(+)例では摘脾群の1年から5年までの生存率はそれぞれ78, 53, 42, 36, 34%であるのに比べて,非摘脾群ではそれぞれ91, 77, 68, 63, 50%と4生率においては有意の差(p<0.05)をもつて脾臓を温存した群がすぐれていた. ついで, n 因子別に予後を比較すると, n0例では摘脾群の1年から5年までの生存率が100, 78, 66, 66, 59%であるのに比べて,非摘脾群ではそれぞれ100,100, 92, 92, 82%と後者で良い成績がえられた.しかし, n1 (+)群の5生率は前者で62%,後者では52%と両者間に有意の差を認めなかつた.
この事実から直ちに,摘脾に対して消極策をとるべきであると結論するものではないが,脾門部あるいはその周辺のリンパ節に転移が予想されないような症例に対しては,予防的な摘脾術には慎重な態度でのぞむことが必要と思われる.

キーワード
胃全摘, 予防的摘脾術, リンパ節廓清

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