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日外会誌. 81(7): 632-639, 1980


原著

障害肝における肝広汎切除の耐術能判定に関する実験的研究
-グルカゴン負荷と血中cAMP変動-

北海道大学 医学部外科学第1講座(指導:葛西洋一教授)

池田 雄祐

(昭和54年10月15日受付)

I.内容要旨
肝切除後の残存肝の予備能力を術前に判定する指標として,グルカゴン負荷後の血中adenosine-3', 5'-cyclic monophosphate (cAMP)値の測定が有用かどうかを検索するため, CCl4急性肝障害を作成し,以下の実験を行なつた.
Wistar系雄性ラットを用い, CCl4投与量 (皮下) により, I群 (対照),II群 (0.025ml/100g体重),III群 (0.05),IV群 (0.1),V群 (0.2),VI群 (0.4)の6群の急性肝障害を作成した.各群ともCCl4投与24時間後にグルカゴン (50μg/kg体重) を皮下注し,経時的に血中cAMP値を測定し,また同時期に血清トランスアミナーゼ値, 30mg/kg体重負荷時のICG血漿消失率,経口的耐糖能などの検索を行なつた.一方,各群の68%肝切除後死亡率,切除肝の組織所見の検索を行ない,これらの検査成績と比較検討した結果,以下の成績を得た.
1. 血中cAMP値はグルカゴン負荷後10分で最高値に達し,以後漸減するが,10分値はCCl4投与量および組織学的障害度にしたがつて低下した.
2. 68%肝切除後死亡例はIV~VI群にみられ,その死亡率はIV群17%,V,VI群50%であつた.IV群の血中cAMP 10分値は387±62pmol/ml (x±SE) でIII群の827±242との間では有意差はないが, II群の978±217とは有意の差を示した.
3. 血清GOT値は肝障害の程度の判定上有用であるが,耐術能の判定の指標とはならず, GPT値も重症肝障害の判定にのみ有用で,耐術能の判定の指標とはならなかつた.
4. 30mg/kg体重負荷時のICG血漿消失率は肝障害の程度の判定には不適当であるが,耐術能の判定法としては有用であつた.
5. 経口的耐糖能は肝障害の程度および肝切除耐術能の判定の指標とはならなかつた.
以上の結果からグルカゴン負荷後血中cAMP値の測定は肝障害および肝広汎切除の耐術能の判定法として有用であると考える.

キーワード
四塩化炭素障害肝, 肝広汎切除, 肝予備能, グルカゴン負荷試験, 血中cAMP

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